アテネの仲間・金子コーチ「伝道師」体現してくれた

[ 2021年8月10日 05:30 ]

中畑清氏
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 【キヨシスタイル】たくさんの感動を残して東京五輪が閉幕した。賛否両論あったけど、開催されなかったら目にすることができなかったアスリートの汗と涙、そして笑顔…。言葉じゃない。躍動する姿に心を動かされた。

 今大会で目立ったのは敗者に対する敬意。ソフトボールの決勝終了後、戦った日米の監督同士が長い時間抱き合ってた。新種目のスケートボード女子パーク決勝では、大技に失敗した選手をいろんな国の選手が担ぎ上げて健闘を称えてたよね。

 1年延期された上に開催が危ぶまれた中、みんな難しい調整を乗り越えて、東京にやってきた。新型コロナという共通の敵に苦しめられながらこの舞台に立ち、戦うことができた。その喜びが、国境を超えて互いに尊敬し合うアスリートの絆を生んだような気がする。これぞスポーツの力、五輪の原点だよね。

 さて、見事に金メダルを獲ってくれた野球。苦しい展開が多かったけど、守りの野球を前面に押し出し、全員で1点を奪いにいく質の高い野球を展開。米国との決勝では先発の森下が、私の不安を覆す好投で流れをつくった。その力を信じた稲葉監督。チームを一つにまとめ、日の丸を背負う重圧をはねのけた采配に賛辞を贈りたい。

 病に倒れた長嶋監督に代わってヘッド兼打撃コーチとして指揮を執った2004年アテネ大会。私の力及ばず、銅メダルに終わった17年前、一緒に戦った仲間が今回の侍ジャパンに一人いる。当時の私と肩書が同じ、金子誠ヘッド兼打撃コーチだ。

 ショートにはキャプテンの宮本慎也がいて出番は少なかったけど、長嶋監督が掲げた「フォア・ザ・フラッグ」に一番、忠実な選手だった。私一人しかいなかった打撃投手を買って出てくれただけじゃない。荷物運びから球拾いまで、裏方の仕事を自ら率先してやってくれた。直前合宿から体重が6キロ落ちた私はどれだけ助けられたことか。

 その彼が稲葉監督を支えて悲願達成。長嶋監督が当時のメンバーに伝えた「野球の伝道師になってほしい」という思いを体現してくれた。自分のことのようにうれしい。おめでとう。そして、ありがとう。 (本紙評論家・中畑 清)

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2021年8月10日のニュース