【内田雅也の追球】拙攻の阪神 走者憤死4度で流れ手放した? 好走と表裏一体の走塁死

[ 2021年6月24日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2-6中日 ( 2021年6月23日    バンテリンD )

<中・神(10)>5回1死一塁、中野のバントヒットで、一塁走者・近本は一気に本塁を狙うもタッチアウトとなる(捕手・桂)(撮影・椎名 航)
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 7回表まで安打がなかったイニングは6回裏だけだった。両軍計18安打が出たがスコアは2―2。両先発とも無四球とむだな走者を出さず、決定打を許さなかった。

 同点の7回裏に登板した阪神2番手・藤浪晋太郎が押し出しを含む3四球を与えた。走者一掃の二塁打も浴びた。四球の怖さをあらためて知る。

 ただ、問題は拙攻だろう。7回表まで12安打を放ちながら2点しか奪えなかった。中日・福谷浩司は試合前まで今季、得点圏で被打率・365(52打数19安打)と“粘れない”傾向にあった。一方の阪神はチーム得点圏打率がリーグ最高。データには時に例外もある。

 4番・大山悠輔が1、3回表の好機に走者を還せなかったが、3回の右中間打球が相手の美技にあう不運もあった。この2打席を含め、チーム全体で得点圏で4打数無安打だった。よく打っていた割には、好機での打席が少なかったのだ。

 なぜか。阪神は実に4度の走者憤死(走塁死2、盗塁死2)があり、流れを手放したのだ。

 以前も書いたが、日本ハム監督・栗山英樹が著書『未徹在』(KKベストセラーズ)で<走塁ミスは最も「流れ」を変える>と記している。次にあげるのが併殺で、これも1度あった。

 最初の走塁死は2回表1死一塁、糸原健斗の中前打で一塁走者ジェリー・サンズが三塁を突いたが憤死した。走者はボールが見える範囲であれば自分で判断すべきだ。この時、サンズは自身の判断で三塁に向かった。

 5回表は1死一塁で、打者・中野拓夢が投手左にセーフティーバント。内野安打で投手・福谷浩司の一塁送球がそれた。一塁走者・近本光司は一気に本塁に突入したが、すべることもできず、手前で立ち往生となった。

 この時、ボールは近本の背中側にあり、判断は三塁ベースコーチ・藤本敦士に委ねられる。藤本は腕を回していた。ファウル地域でボールを拾った二塁手・溝脇隼人の俊敏な好返球であえなく憤死となった。

 二盗憤死は6回表糸原と7回表近本だった。ともに2死からで相手バッテリーも強く警戒していた。

 手痛い憤死が相次いだが、失敗したからといって選手やコーチを責めていては、積極走塁など成り立たない。今季、勢いを生んできた果敢な走塁がなえてしまう。憤死は憤死だが、走塁ミスではないととらえたい。むろん、監督・矢野燿大はそのつもりだろう。

 昔から「好走と暴走は紙一重」と言われる。積極走塁と憤死は表裏一体、もろ刃の剣なのだ。敗戦は受けとめたうえ、坂本龍馬式の「同じ死ぬなら前を向いて死ね」の精神は失ってはならない。 =敬称略= (編集委員)

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