ファンの存在を実感 あの日、田中将大がマウンドで浮かべた表情

[ 2020年7月11日 13:30 ]

ヤンキース・田中将大(AP)
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 ファンのみなさん、おかえりなさい!。7月10日。プロ野球は今年初めて球場にファンを迎えて5試合を実施した。雨天中止となった1試合を除き、制限された観衆は計2万633人。プロ野球史上3度目のサヨナラ本塁打3本という記録と、記憶が野球ファンに刻まれた。

 選手とファンの存在。記者の思い出に残っている瞬間がある。14年4月4日、場所はカナダ・トロント。ブルージェイズ―ヤンキース戦の初回だった。マウンドにいたのはヤ軍・田中。メジャーデビュー戦だった。初回、いきなり先頭弾を浴び、最初のアウトを取った後。相手は3番・バティスタだった。1ストライクからの2球目。膝元への直球に、バティスタはバランスを崩しながら避けた。するとブ軍の本拠地、ロジャーズ・センターには猛烈なブーイングが起きた。正直に言えばそこまで大げさに避けるようなボールではなかった。直後に、捕手からの返球を受けながら田中が浮かべた表情。「え?何?なんでこれでそんなブーイング?」と言いたげな、苦笑いとも、呆れ笑いともいうような、なんといえない笑みを鮮明に覚えている。

 実は、試合前も強烈だった。外野フェンス沿いにあるブルペン。田中がウォーミングアップを始めると、早くも敵地のファンは戦闘モードだった。「異様な雰囲気だったというのは覚えている。ブルペンの上からトロントのファンにずっと意味は分からなかったけど、汚い言葉を言われていた。こんなのがずっと続くのかなって」。鳴り物入りで日本からメジャーに渡った「新人」だったからこそ、余計に大きかったメジャーの洗礼だった。

 選手がプレー中にファンの声にはっきりと表情を変えて反応することは、そう多くない。無観客から有観客になった前日10日、京セラドームでは試合中のヤジで起きた笑い声に打者が打席を外す場面があった。だが、プレーに関わった選手たちは表情を変えないように努めていた。だからこそ、記者にとってはあの日、田中がマウンドで浮かべた表情が印象深い。スタジアムにおける、ファンの存在を如実に表した1つのシーンだ。

 新型コロナウイルスは再び感染拡大の傾向となっている。「ファンのことを考えると素直に喜んでいいのか」と懸念、不安を抱えてプレーしている選手もいる。ファンはプロ野球の一部だということは、10日の試合で改めて実感した。その存在を守るため、我々は今できる感染対策をしないといけない。それが「文化」としてのプロ球界の使命だと再確認した。(記者コラム・春川 英樹)
 

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