【内田雅也の追球】強く勇敢な父であれ ブレーキのボーア、開幕3連敗の阪神へ

[ 2020年6月22日 07:00 ]

セ・リーグ   阪神1―7巨人 ( 2020年6月21日    東京D )

4回、中飛に倒れたボーア(右)
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 新井貴浩(本紙評論家)が2012年11月に出した著書に、その名も『阪神の四番』(PHP新書)がある。阪神で4番に初めて座ったのが2010年4月18日、横浜(現DeNA)戦(横浜)だった。金本知憲(本紙評論家)が右肩を傷め、先発メンバーから外れた日、つまり連続フルイニング出場が1492試合で止まった日だった。以後約2年間務めた阪神4番としての重圧をつづっている。

 「真の四番」の条件として<四番とはチームにとっての父親である>と書いている。<子どもにとって、父親はすごく強い存在だ。父親の弱気なところや弱い部分を子どもは見たくないし、父親も見せまいとするものだ>。新井の父親は相当厳しく、少年時代は「お父さんを怒らせたら終わり」と恐怖感すら抱いていたそうだ。<愛情に裏打ちされた厳しさ>だったと振り返っている。
 新井が「巨人の四番以上のプレッシャー」と感じていた阪神の4番に求めたのがチームを家族に見立てたうえでの「父親」だった。威厳や風格ということだろう。

 ならば、今季の阪神の4番はどうか。残念ながら強い父親像は浮かんでこない。4番として獲得した新外国人ジャスティン・ボーアは開幕3戦目で早くも4番を外され、6番に入った。

 「不振の打者の打順を下げると、そこに好機で回る」とは古くから野球界にあるマーフィーの法則のような経験則である。不思議なものだが「相手が好調な打者を避けるから、自然と不調の打者に回る」と元阪神打撃コーチの藤井栄治(当時本紙評論家)が語った言葉を覚えている。

 先発メンバー発表時に抱いた不安が的中した結果となった。4回表、6回表と目の前で5番・福留孝介が半ば勝負を避けられる形で四球で歩いた。ボーアは2死一、二塁で中飛、2死満塁で二ゴロと、またもブレーキ役となった。

 開幕から3試合で12打数無安打。しかも自身が打席の際、塁上に残した走者の合計はのべ15人(うち得点圏走者7人)に上る。これだけ走者を立ち往生させては敗戦の責任と指摘されるのも仕方がない。
 さらに12打席のうち、第1ストライクの見逃しが8度もある。左腕・高木京介に対し、前日は3球すべて見逃しの三振。この日も見逃しで2ストライクと追い込まれている。このような消極性の原因が弱気や不安、焦燥にあるのなら、奮起をうながしたい。

 大リーグ時代のカウント別成績を見れば、
 ▽0ストライク時 打率・331 30本塁打
 ▽1ストライク時 打率・309 24本塁打
 ▽2ストライク時 打率・202 38本塁打
 となっている。

 追い込まれれば成績が下がるのは古今東西の道理だが、ボーアの場合にも当てはまる。

 新井は先の書で<プレッシャーを糧にせよ>と書いた。「打てなかったらどうしよう」ではなく「なにくそ」と<自分を奮い立たせた>。球場でのヤジやマスコミの批判も奮起の材料にしたそうだ。強い父親像を自らに課していた。

 21日は父の日だった。6月の第3日曜、アメリカでも同じだ。作家ロジャー・カーンは野球は<父子相伝の文化>だと書いている。昨年8月に長男・ジミーが生まれ、ボーアも父親となった。大統領護衛まで務めたシークレットサービスの父親ジムから学んだように、自身も息子に引き継いでいく精神がある。

 その一つは、今の消極ではなく、勇敢さではないか。何もボーアだけではない。3連敗で沈むチーム全体にほしい心だと言えるだろう。=敬称略=(編集委員)

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