中学硬式野球に新風 「4大改革」推進するポニーリーグの挑戦 広澤克実氏「野球を通じて成長見守る」

[ 2020年4月25日 05:00 ]

子供たちが野球を楽しめる環境づくりに重きを置いているポニーリーグ
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 画期的な制度づくりの数々が、注目を集めつつある。昨年10月に投球制限や国際標準バットの導入などを決定した、中学硬式野球のポニーリーグ(一般社団法人・日本ポニーベースボール協会)。新型コロナウイルス感染拡大のため現在は活動を休止しているが、障害予防と無限の可能性を探究する活動理念は野球界における今後の人材育成に欠かせない。理事長を務める本紙評論家・広澤克実氏を電話取材し、その実像に迫った。

 中学硬式野球はボーイズ、シニア、ヤング、フレッシュを加えた5団体で構成されるが、ポニーが打ち出す新機軸は時代の最先端をリードしている。高野連による球数制限導入決定に先立つこと1カ月。ポニーリーグは昨年10月、「SUPER PONY ACTION 2020」と題し、4大改革を発表した。サブタイトルは「障害予防と無限の可能性の探究と育成」。広澤理事長から、それぞれの背景を聞いた。

 <1>投球制限
 「ポニーはアメリカが発祥の地です。アメリカが膨大なデータに基づいて作成したガイドラインがあって、その8割に設定しました。体格面も考慮して、より安全性を確保するためです」

 他の4団体に先駆け、全学年を対象として大会での投球制限を規定した。それぞれ1試合の投球数は(1)1年は60球で変化球禁止(2)2年は75球(3)3年は85球に制限。投手の障害予防という観点だけではなく、投球制限はより多くの選手に登板機会を与えることにもつながる。同日の連投及び投手捕手の兼任も禁止。日本のスポーツ医学をけん引してきた慶友整形外科病院の古島弘三医師の指導に基づき、1週間の投球数も上限を設けた。

 <2>国際標準バット(USAバット)
 「一番の目的は中学1年になったばかりの子どもたちの安全を守るためです。1年生の投手が変化球禁止の中で、打者が高反発のバットを使えば、投手が大けがをする可能性があります」

 高校野球でも導入が議論されている国際標準バットは、従来の日本製に比べ反発係数が低い。投手を危険から守ることに加え、投手の負担軽減を呼ぶ。芯でとらえなければ飛距離、痛烈な打球は生まれず、打者の技術向上にも一役買う。アジア大会、世界大会も<2>を使用。1年生大会、全日本選手権大会での導入も決定された。

 <3>イエローカード
 「監督、コーチを罰するものではなく、子どもたちが明るく楽しくプレーするためのルールです」

 子どもたちが野球を楽しめる環境づくりに、重きを置く。監督、コーチが怒声、罵声を発した際は審判、球場責任者に対して<3>の発行権を付与。旧態依然とした指導者の振るまいは野球離れの一因にも挙げられており、明文化したことは革新的な試みと言える。

 <4>Easy Score
 「中学野球はスコア付けなど、親御さんの負担が多い。その軽減と、正確なデータ管理は大会ごとの個人賞設定を可能にします」

 協会本部がデータ管理することで、公式戦での球数表示を迅速かつ明確にするだけでなく、スコアラー要員が不要となり親の負担を軽減した。<4>の導入に合わせ、協会本部、各連盟に公式記録部を新設。従来は難しかった個人賞(首位打者、最優秀防御率など)の設定も可能となった。

 毎年、日米親善大会を開催(今夏は新型コロナウイルス感染拡大のため中止)するなど、国際交流も魅力の一つだ。「野球を通じて、子どもたちの成長を見守りたい。それがポニーの理念です」。広澤理事長の言葉は、選手、親にとって頼もしい響きがあった。

 《奈良など新加入で7チームに増加》関西地区では今季から愛知稲沢、奈良、堺、兵庫、東広島の5チームが新規加盟した。従来の京都、神戸を加え計7チーム。主流であるボーイズ、シニアなどの陰に隠れて低かった認知度を覆し、一気に活気づいた。

 14年に「フィールドオブドリームズ」として創部された奈良は、故障しづらい体づくりを最優先するゆえ、無加盟での活動を続けてきた。だが、球数制限をはじめとするポニーの理念に賛同。堀泰人監督は「子どもたちのためという理念があり、目標を達成していくためのルール作りがしっかりしている。共感できるところがたくさんあり、加盟させていただきました」と経緯を明かす。

 協会としても、関西地区の今後の発展に力を注ぐ構え。事務総長の那須勇元氏は「7チームになったことで、地区予選も本来あるべき形になる。今後は関西で全国大会や国際大会を行うことで、(ポニーの魅力を)さらに浸透させていきたい」と期待を込めた。 

 ▼関西連盟・本田達弥連盟長 他団体のチームの方々と練習試合をさせて頂く際にはポニーのルールを適用し、良さを知ってもらう取り組みはしてきました。これまでは関西になじみがなかったですが、ようやく皆さんに認知していただけるようになってきたと思います。チーム数が少ないと試合数も相手も限られてしまうので、(チーム数増加は)子どもたちにとっても喜ばしいことだと感じております。

 ▽ポニーリーグとは 1950年に米ペンシルバニア州ワシントンで誕生した少年野球リーグ。日本では75年5月に協会が発足した。現在は30カ国でリーグが結成され、毎年世界選手権大会が開かれている。英語で子馬を意味する「PONY(ポニー)」にはProtect Our Nation’s Youth(我々の国家の宝である青少年の成長を守ろう)という理念が込められている。2歳ごとにリーグが分かれており、日本では「ブロンコ」(11、12歳)、「ポニー」(13、14歳)、「コルト」(15、16歳)の3カテゴリー。先発出場選手に限り、交代で一度ベンチに退いても再度出場(投手の再登板を除く)できる「リエントリー」の独自ルールがある。 

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