【タテジマへの道】近本光司編<上>驚異の運動神経、究極の負けず嫌い
スポニチ阪神担当は長年、その秋にドラフト指名されたルーキーの生い立ちを振り返る新人連載を執筆してきた。いま甲子園で躍動する若虎たちはどのような道を歩んでタテジマに袖を通したのか。新型コロナウイルス感染拡大の影響で自宅で過ごす時間が増えたファンへ向けて、過去に掲載した連載を「タテジマへの道」と題して復刻配信。第7回は18年ドラフトで1位指名された近本光司編を2日連続で配信する。
10月25日のドラフト会議。12球団の1位入札を見終わった光司は「自分はまだ先だな」とリラックスして、テレビ画面に視線を注いでいた。ところが運命の瞬間は突然訪れた。阪神“3度目”の1巡目指名で「近本」の名前が呼ばれたのだ。
その同時刻、遠く離れた広島で、本人と同等か、それ以上に指名の瞬間に歓喜する男がいた。JR西日本・西条駅に勤務する山本大貴さん(24)だ。神港学園(兵庫)時代に高校通算107本塁打。昨年、早実・清宮(現日本ハム)に抜かれるまで高校通算最多本塁打記録を保持し、幾度となくメディアに露出した“アーチスト”と光司が、実は「幼なじみ」という縁で結びついていたのだ。
山本さんとの出会いは地元・淡路市内にある仮屋保育所だった。物心つかない頃から運動神経抜群。「誰も教えていないのに、鉄棒で逆上がりをして驚きました」。山本さんのなにげない回想から、驚異的な運動神経の良さが浮かび上がった。
保育所からそろって同市内の学習小に進み、同じ少年野球チームにも所属した。毎日のように、一緒にボールを追いかけた。「他にやることがなかったので野球ばかりやっていました。野球になると顔色が変わる。表には出さないけど、負けず嫌いな部分がありましたね」と山本さん。誰も知りえない横顔を紹介し、懐かしそうに当時を振り返った。
特に思い出に残っているのは、小学6年時の対外試合。「1番・中堅」で出場した光司は、相手の先頭打者が本塁打を打ったその裏に、先頭打者本塁打を打ち返したという。本当に、負けん気が強い少年だった。
東浦中に進学してからも、野球が2人をつないでいた。ともに野球部に入部。部活が休みの日の「娯楽」も野球だった。まさに野球漬けの日々。3年時には山本さんが捕手を務め、バッテリーを組んだ。3年間の最高成績は淡路市で準優勝が最高。中学卒業後の進路は光司が社、山本さんは神港学園を選んだ。ともに県内屈指の強豪校。中学卒業時には「高校では対戦したいな。その時は全部、直球勝負するから」と山本さんに挑戦状をたたきつけ、それぞれの道へ進んだ。
その誓いは高校最後の夏に実現する。兵庫大会5回戦で対戦。結果は山本さんから3三振を奪い、試合も制した。投げた勝負球は、なんと全部スライダー。高校野球に終止符を打たれた山本さんの胸中には悔しさがこみ上げるとともに、違う感情も去来していた。「光司らしいな」。勝負に徹してきたマイペースさと負けず嫌いを、再確認した夏だった。
そしてもう一人、幼い頃を知る人物がいた。保育所からの幼なじみの来田龍哉さん(24)だ。来田さんもまた、その人柄を「素朴で感情を表に出さないけど、すごく負けず嫌いなところがある」と語った。それを象徴する出来事は小学4年の頃に起こった。1年に1度の発表会。学年ごとに、多彩な楽器を使って演奏を披露する行事で、光司は木琴を担当。楽器の習得は一番早かった。まだ誰も演奏ができない中、誰よりも早く課題の部分を演奏できるようになり、胸を張った。手先の器用さ、頭の良さ、リズム感覚。すべてを持ち合わせた上に「負けず嫌い」が加わった結果だった。
もう一つのエピソードも、性格を如実に物語る。少年野球を引退後、始業前や放課後に一輪車が流行した時期があった。もちろん、最初はうまく乗りこなせない。すると登校時間30~40分前から練習を始めた。そして結果的に、来田さんよりも早く一輪車に乗りこなした。「野球以外のことをやっても才能がある。本当にすごい」。
1メートル70、72キロ。決して体格に恵まれているとは言えないが、阪神から1位指名を受けるまでに成長できた源が判明した。幼なじみたちが声をそろえる「負けず嫌い」だ。(2018年11月10日付掲載。あすに続く)
◆近本 光司(ちかもと・こうじ)1994年(平6)11月9日生まれ、兵庫県淡路市出身の24歳。社では外野手兼投手で甲子園出場なし。関学大3年春には外野手として関西学生リーグでベストナイン。大阪ガスでは1年目から公式戦出場。今夏の都市対抗は首位打者の活躍で初優勝に貢献し、MVPに相当する橋戸賞を受賞。18年侍ジャパン社会人代表。1メートル70、72キロ。左投げ左打ち。
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