【内田雅也の追球】最強の「習慣」――早寝早起きの阪神が目指す強い心

[ 2020年2月26日 08:00 ]

キャンプ打ち上げに向け、練習器具の撤収が行われた
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 朝、日課の散歩で宜野座村の農道を歩いていると、キャベツ畑で実に多くのモンシロチョウが舞っていた。産卵に来ているのだろう。毎年2月下旬に見られる群舞だ。今年もまた見られた。

 球場には大型トラックがやって来た。クレーンを使い、ピッチングマシン(知る人ぞ知る吉田加工所の青いマシン)やネットを積み込んでいく。ああ、キャンプも終わるなあ……と感傷的になる風物詩である。

 キャンプ中、大活躍したマシンたちは陸路で那覇港へ。さらに船に乗り、2日かけて大阪南港まで旅した後、甲子園球場に帰っていく。これもまた毎年、打ち上げ前日に見られる光景だ。

 それもこれも、毎年同じである。自然の摂理や風物詩、変わらぬものに心を寄せる。

 「素晴らしい人生を保証してくれるのは、才能ではなく習慣だ」という言葉がある。喜多川泰の小説『書斎の鍵』(現代書林)で、主人公の青年が父親から幾度も聞かされてきた。

 習慣もまた、変わらぬものである。そして変わらぬものこそ強い。

 長年、阪神のキャンプを見てきて思うのは朝が早くなったことだ。「宿舎で寝ぼけ眼で起きてきたり、二日酔いの選手なんて一人もいません」とチーム運営部長・坂孝一が話していた。神戸村野工高から1987(昭和62)年に入団。選手、フロントとして見続け、そして言うのだ。「宿舎での風景は本当に様変わりしました。習慣でしょうね」

 たとえば、西勇輝は監督・矢野燿大から開幕投手の指名を受け、実践しているのが「早寝早起き」らしい。亀山努(本紙評論家)との対談(2月13日付)で語っている。「9時に寝て5時に起きるサイクルを継続していきたい。それができなくなった時、引退が近づく。生活面も隙がないようになりたい」

 もちろん西だけではない。若手選手の早出特打や早出特守は連日で、すっかり定着している。

 かつて、鳥谷敬は午前5時からトレーニングするため、ホテルの朝食会場に目玉焼き2個を注文していた。早起きした当時コーチ(現2軍監督)の平田勝男がぽつんと皿に乗った目玉焼きを見て「これ、食べていい?」と問うと「鳥谷さんのですから!」と食堂スタッフから叱られたという笑い話がある。

 また平野恵一(現2軍コーチ)は同じく5時に汗だくでホテルに走って帰ってきたのを見た人を知っている。いま泊まっているペンションのオーナーから聞いた。

 早起きの習慣はそうして引き継がれ、今や伝統となっているわけだ。

 先の書の言葉には続きがある。「習慣によってつくり出すべきものは思考だ。心と言ってもいい」。人間の思考には習慣性があり、いつも同じことを考えるくせがある。落ち込む者がいつも落ち込み、悲観的な者はいつも悲観的になる。

 「行動は心に左右される以上、この“心の習慣”をよくしない限り、よりよい人生になることはない。われわれが身につけるべき習慣は、心を強く、明るく、美しくするための習慣ということになる」

 ならば、最強の「心の習慣」を身につけたい。矢野がよく言っているではないか。失敗しても前を向く、「オレがヤル!」と前に出る、である。=敬称略=
         (編集委員)

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