【内田雅也の追球】「幸せ」を感じる力――CSへ向かう阪神の「青春」

[ 2019年9月29日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7―0DeNA ( 2019年9月28日    横浜 )

<D・神25>4回、木浪が投前スクイズを決める(撮影・成瀬 徹)
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 「幸せ」の原形と言える平安文学の「さいはひ」(幸い)は女性に対してしか使われなかったそうだ。寵愛(ちょうあい)を受け、玉の輿(こし)に乗ることを指した。

 <つまり「ハッピー」ではなく「ラッキー」の意味を持つ>と、作家・酒井順子が日本自動車連盟機関誌『JAF MATE』10月号に書いていた。毎号、同じテーマを異なる書き手がつづるエッセー『幸せって何だろう』で読んだ。

 今の阪神だ。前夜(27日)、3位を争う広島が敗れ、幸運にも自力でのクライマックスシリーズ(CS)進出の可能性が復活した。

 エッセーは続く。「ラッキー」を待つだけだった平安時代に比べ、今は「ハッピー」を求めて自由に動ける。<幸せは「玉の輿に乗る」等といった「結果」ではない(中略)。幸せを求めて右往左往する、その「経過」自体が幸せ>なのだ。

 これも今の阪神だ。日本一という最高の栄誉は自分たちががんばり、勝てば得られるのだ。

 今の阪神を突き動かす力は、この「幸せ」である。シーズン終盤、長年エースの座に就いていたランディ・メッセンジャーが、脳腫瘍と闘った横田慎太郎が、今季限りでの現役引退を表明した。横田は26日、2軍戦で最後を飾り、メッセンジャーは29日、引退試合に臨む。彼らはもうプレーすることはできない。

 同僚だった彼らの、あの熱き涙を目の当たりにして何も感じない者はいない。誰もがいま、こうして野球ができることの幸せを感じている。

 そんな選手たちの心はプレーに顕(あらわ)れる。初回先頭、平凡な二ゴロでも一塁は間一髪だった。1回裏先頭、中前に抜けるゴロを投手が右足を出して止めて刺した。抜ければ2失点の右中間大飛球を右翼手が好捕した。

 難敵のDeNA・今永昇太から奪った先制4点は3、4番打者の粘りと選球(連続四球)に凡ゴロ疾走(内野安打)で作った1死満塁で、追い込まれながら食らいついた2点打、同じく食らいついたスクイズであげた。

 あえて固有名詞は書かなかった。もはや誰が、ではない。全員がやるべきことをやった成果だ。

 「闘将」と呼ばれた西本幸雄は時にふるった鉄拳が注目されたが、よく「オレは選手たちに語りかけたよ」と話していた。「野球がやれるのは人生でほんの短い間しかない。その青春時代をともに実り多きものにしようやないか」

 阪神は今、最高に幸せなのだ。青春のただ中にいるのだ。さあ行こう。幸せを感じながら、あと2勝だ。=敬称略=(編集委員)

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