新時代でも「特別」であってほしい伝統の一戦

[ 2019年4月20日 09:00 ]

<神・巨>平成最後の伝統の一戦、満月が甲子園を照らす(撮影・後藤 正志)
Photo By スポニチ

 平成最後の伝統の一戦となる巨人と阪神との3連戦。19日の初戦は巨人が圧勝した。開幕から巨人が4戦4勝。しかもスコアの合計は巨人37点に対して、阪神11点。一方的な試合が続いている。

 まだ新米記者だった2000年。巨人―阪神戦で、ある巨人投手の敗戦原稿で「この日の失敗は次の○○戦で取り返せばいい」と書いて、上司に怒られた。「巨人の選手が阪神に負けて何、次があるんだ?」。どう原稿を直されたかは覚えていないが「阪神に負けたら甘いことは一切書くな。ファン(=読者)もそれだけの思いを伝統の一戦に託している」とたたき込まれた。

 日本プロ野球球団として1番目と2番目の歴史を持つ球団。今は亡き「8時半の男」宮田征典氏は投手コーチ時代によく「甲子園で抑えたりしたら、試合後に食事にも出られなかった、打たれたら新聞で叩かれる。結果を出すしかなかった」と聞かされた。ただ、必ず次の言葉をつないだ。「死ぬ気で投げなきゃいけない。そんな経験は巨人と阪神以外ではできないんだよ。だからお互い強くなれるんだ」――。

 そんな関係をうらやましがっていたのは、現中日の松坂大輔である。レッドソックスの入団会見でヤンキースとのライバル関係を米メデイアに聞かれ「日本のプロ野球で言う巨人と阪神と同じようなもの」と答えた。後日聞くと「子どもの時から見ていたあのピリピリ感は両球団しか味わえない。それがレッドソックスでヤンキースと同じ感覚を感じられたらうれしい」と話していた。野球選手にとっても、巨人―阪神戦はあこがれであり、特別であった。

 今の選手たちが「他の5球団とどこから勝っても一緒」という思いであれば、それは、ファンにも伝わってしまう。何事においても「切り替え」「次」が重要視される時代でもある。ただ、その一瞬に投下するエネルギーが弱くあってほしくはない。かつてのGT戦士が「死ぬ気」でプレーした思いと「この1球で結果を残さなければ次はない」と1プレーに集中することは、時代が違えどイコールであってほしい。温かく見守ってくれる今の野球ファンの寛容さに甘えてほしくない。

 開幕から巨人が4戦4勝するのは平成では初だった。選手が必死にやっていないはずがない。令和という新時代へ伝統をつなぐためにも、巨人と阪神は「特別」であってほしいと願う。(記者コラム・倉橋 憲史)

続きを表示

2019年4月20日のニュース