伝説に挑むノーヒッター 楽天・岸孝之

[ 2016年12月1日 10:15 ]

11月18日の楽天入団会見で笑顔の立花球団社長(左)と星野球団副会長(右)に囲まれる岸
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 【宮入徹の記録の風景】大きな決断を下した。西武から岸孝之投手(31)が、フリーエージェント(FA)権を行使し楽天に移籍した。宮城県仙台市出身の岸は、名取北から東北学院大を経て06年大学・社会人希望枠で西武入り。来季は地元球団での再出発となる。

 西武時代の岸は入団1年目の07年にいきなり11勝をマーク。同年から10年までの4年連続を含め、10年間で7度の2桁勝利を記録するなど通算103勝。西武のエースとして安定した成績を残した。14年5月2日のロッテ戦(QVCマリン)では史上78人目(89度目)のノーヒットノーランを達成。許した走者は四球による1人だけの「準完全試合」だった。

 プロ野球で岸の後にノーヒットノーランを記録した投手は生まれていない。もしも岸が次のノーヒッターになると、伝説の大投手、巨人の沢村栄治が1936年9月25日、37年5月1日といずれもタイガース戦でプロ野球第1号、第2号となって以来2人目の連続達成者になる。

 さらにノーヒットノーラン2度以上は前記沢村、広島・外木場義郎の3度を含め9人と少ない。そのうち2球団で記録したのは真田重蔵が大陽時代の48年9月6日阪神戦、阪神時代の52年5月7日広島戦(当時は重男)で達成したのがあるだけ。こちらも極めて珍しい記録なだけに期待が膨らむ。

 過去に楽天の最少安打の完封勝利は09年8月5日オリックス戦で藤原、14年8月15日ロッテ戦で則本がそれぞれマークした1安打。ノーヒットノーランは球団創設11年を経過したが、いまだにいない。岸にとって球団初の肩書は格好なモチベーションとなるだろう。

 今季の岸は4月下旬から6月半ばまで、右足内転筋痛のため戦列を離れたものの9勝(4敗)を挙げた。防御率も規定投球回には届かなかったが2・49と充実。不調に終わった昨年の5勝6敗、防御率3・02から復調の兆しを見せた。実際、昨年は走者を得点圏に置いた場面では被打率が・313と打ち込まれたが、今季は・169と大きく改善。ピンチの場面で粘れたことは、来季につながるに違いない。

 ただ、気がかりなのが日本ハム・大谷との相性。投手としての投げ合いではなく、打者としての大谷の方だ。今季の岸は大谷に対し、本塁打こそ許さなかったが12打数7安打、被打率・583と攻略された。通算でも26打数12安打の・462と手を焼いている。13年以来となるリーグ優勝を遂げるためにも、大谷を乗せる訳にはいかない。新天地でこれまでの借りを返したいところだ。(専門委員)

 ◆宮入 徹(みやいり・とおる)1958年、東京都生まれ。同志社大卒。スポニチ入社以来、プロ野球記録担当一筋。94年から15年まで記録課長。本社制定の最優秀バッテリー賞の選考委員会には、1回目の91年から26回連続で資料説明役として出席。 

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