ヤクルト山田の覚醒の秘密(上)重圧から解放された逆転満塁弾

[ 2015年1月22日 13:13 ]

昨年10月6日のDeNA23回戦で192安打目となる満塁弾を放ち日本人右打者の最多安打記録を更新した山田(右)

 ヤクルトの山田哲人内野手(22)が、プロ4年目にして歴史に名を刻んだ。昨季、日本人右打者最多の193安打を記録。1950年に藤村富美男(阪神)が記録した191安打の記録を、64年ぶりに塗り替えた。大ブレークの陰で、9月は打率・240と苦しみも経験。13年までは控え選手でありながら、重圧を吹き飛ばして大記録を打ち立てた。192安打目となった逆転満塁弾、さらには4年目の覚醒の秘密に迫る。

 高々と上がった打球が神宮球場の左翼席に消えた。10月6日のDeNA戦。ベンチが、ファンが、22歳が打ち立てた快挙に酔いしれた。新記録となる192安打目は、8回1死満塁で飛び出した劇的な逆転弾。三塁ベースを回って小さく拳を握った山田は、ちゃめっ気たっぷりに振り返る。

 「跳びはねたかったけど、必死に我慢していた。やっておけばよかったかな、ガッツポーズくらい」。昨年一番印象深い安打を問われれば、迷わず143試合目で4安打目を放った、この一打を挙げる。それは人知れず闘っていた重圧から解放された瞬間だった。

 苦しんでいた。5月はともにリーグトップの打率・372、42安打。6月に交流戦首位打者に輝けば、7月には初の球宴出場。8月には月間MVPを受賞した。しかし9月の月間打率は・240。し烈な最多安打のタイトル争い、記録への重圧が22歳を襲っていた。

 日課となっていたのは、帰りの車中でのライバルの成績チェック。運転席に座る山田は、広島・菊池、中日・大島の成績が気になり、車に乗り込むとまず助手席に座る1学年先輩の谷内に「調べて」とお願い。気心知れた先輩の前では「まじかよ…」「よしよし」と本音も漏れた。

 埼玉県戸田市の寮に帰ると、自分の時間をつくるように心掛けた。スポーツニュースは見ず、録画したドラマで気を紛らわせた。しかし目を閉じると、決まって菊池と大島の顔が浮かんだ。菊池がいなくなれば大島が現れ、大島がいなくなれば菊池が現れる、の繰り返し…。「意識しているんだなと思いました。毎日毎日、大変でしたよ」という苦悩の日々も「無理やり寝るしかなかった」とグッと目をつむり、翌日の戦いに備えた。

 験も担いだ。車中で聴く音楽は、安打が出れば同じものを続けた。7月下旬から8月中旬にかけて16試合連続安打を放った好調時には連日、韓国の女性アイドルグループ「少女時代」のCDがかかっていたが、9月は25試合中9試合が無安打。同じCDが流れ続けることも少なくなった。しかし山田は言う。

 「途中から開き直ったんですよ。自分ではバットも振れていて、いい当たりも出ていたのに、安打にならずに(相手の)正面に行く。“何でやろ”と思ったんですけど“そのうち大丈夫だろ”と切り替えました」

 「切り替え」。これこそが、昨季の山田の進化の証だ。昨年の春季キャンプではレギュラーすら確約されていない立場だった。技術はもちろん、精神面での成長。山田はシーズン前、杉村打撃コーチとある約束をしていた。

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2015年1月22日のニュース