乙武洋匡氏 多様な存在を尊重し合う理念を掲げ

[ 2021年8月9日 05:30 ]

トランスジェンダー選手として初めて五輪に出場を果たした重量挙げのハバード
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(15)】17日間の祭典が幕を閉じた。開幕前はコロナ禍での強行開催に疑問がないわけではなかったが、閉幕したいま、これまでアスリートが積み重ねてきた努力を発揮する舞台が用意されたことに、どこかホッとしている自分もいる。

 大会を終えてさまざまな総括や検証が行われることになるだろうが、私自身は車椅子を使用する障がい者ということもあり、大会ビジョンの一つでもある「多様性と調和」という観点から今大会を振り返ってみようと思う。

 開会式には、確かに多様性が感じられた。日本選手団の旗手の一人は、八村塁選手。そして聖火の最終点火者は大坂なおみ選手。どちらも海外にもルーツを持つ選手だった。また聖火の最終走者の一人は、パラリンピックで夏季と冬季合わせて7つのメダルを持つ“女王”土田和歌子選手。車椅子で颯爽(さっそう)とトラックを駆ける姿には胸が熱くなった。

 多様性という観点からもう一つ大きな話題を上げるなら、本連載でも取り上げたトランスジェンダー選手の初参加だろう。もちろん、「公平性の担保」と「多様性の確保」の着地点はいまだ定まっておらず、おそらくは今後も議論が続いていくだろう。しかし、こうした選手の登場がなければ、議論すら始まることはない。今大会限りで引退を表明したローレル・ハバード選手に、心から拍手を送りたい。

 近代五輪は常に国威発揚に利用されてきた。しかし、今大会はそんな風潮とは無縁の場面も見られた。スケートボード女子パーク決勝で果敢な攻めを見せたものの、惜しくも転倒した岡本碧優選手に各国の選手が駆け寄り、抱きしめ、彼女の体を担ぎ上げた。10代の彼女たちからは、国ごとのメダル獲得数で一喜一憂することの意味はまるで見いだせなかった。

 多様性と調和…言い換えるなら、多様な人々がその存在を認められ、たがいを尊重し合うこと。決して平たんな道のりではないが、今後の五輪でも理念として掲げ続けてほしい。=終わり=

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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