【内田雅也の追球】「自燃性」心の燃やし方…冷静さも持ち合わせた大山の見事な一撃

[ 2022年8月31日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―0広島 ( 2022年8月30日    甲子園 )

<神・広>8回、決勝本塁打の大山はガッツポーズのナインを背に一塁を回る(撮影・坂田 高浩) 
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 京セラ創業者で名誉会長の稲盛和夫によると、ものには3つのタイプがあるという。著書『生き方』(サンマーク出版)に記している。

 (1)火を近づけると燃え上がる可燃性のもの、(2)火を近づけても燃えない不燃性のもの、(3)自分で勝手に燃え上がる自燃性(じねんせい)のもの。

 <人間のタイプも同じで、物事をなすには自ら燃えることができる「自燃性」の人間でなくてはなりません>。

 自ら燃える。球界で言えば「燃える男」と呼ばれた長嶋茂雄である。

 長嶋と同じ背番号「3」を背負う阪神・大山悠輔はこの夜、燃えていた。見た目から内なる闘志はわからないが、燃えていたのは間違いない。

 長期ロードを終え、7月31日以来、30日ぶりの甲子園での一戦。雨の中、3万7千を超える観衆が詰めかけていた。燃える要素はまだある。

 好機で2度凡退していた。特に4回裏1死一、三塁は2ボール―0ストライクから内角高め、恐らくボール球の速球を打ちに出て一邪飛を打ち上げた。打者有利のカウントであり、積極的に打ちにいくのはいい。だが、燃えすぎて悪球まで手を出しては失敗する。心の燃やし方は難しい。

 ただ、大山も守備では隠れた貢献をした。0―0の5回表1死一、三塁。打者は投手・森下暢仁でセーフティースクイズが濃厚な場面。セーフティースクイズは一塁走者がいて、塁についている一塁手を狙って転がすのが定石である。

 大山は一塁ベースから離れて前に立ち、投球前にチャージ。一塁側を狙っただろう打者に重圧をかけた。森下のバントは捕手前に転がって、三塁走者を挟殺したのだ。

 こうして巡ってきた8回裏2死の打席だった。3ボール―0ストライクの後、ほぼ真ん中の速球をたたき、左翼席へ決勝ソロ本塁打を打ち込んだのだ。幾度か書いてきたが、圧倒的に打者有利なカウント3―0は力みなどでミスショットしやすい。大山は心を燃やしながら、一方では好球に絞る冷静さも合わせ、一撃で仕留めたのだった。

 冒頭に書いた稲盛の訃報が試合前に伝わっていた。24日、老衰で他界。90歳だった。

 稲盛は「自燃性」になるには<仕事を好きになること>としている。この夜は好きな野球をさらに好きになれる勝利だった。=敬称略=(編集委員)

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2022年8月31日のニュース