パリ五輪の内定1号つかめ!阿部詩のあくなき探求心 追われる立場「私しか味わえない」世界柔道7日開幕

[ 2023年5月2日 09:30 ]

大切にしている言葉「千里の道も一歩から」と書き込んだ色紙を手に撮影に応じる阿部詩
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 柔道の世界選手権は7日にドーハで開幕する。来年のパリ五輪日本代表争いで重要な意味を持つ今大会。女子52キロ級の阿部詩(22=パーク24)が2年連続4度目の頂点に立てば、2連覇を目指す来年のパリ五輪代表へ大きく前進する。東京五輪を制してから2年近くが経過し、この春から社会人になった阿部。この日までに本紙の単独インタビューに応じ、現在の取り組みやパリ五輪への思いなどを語った。(取材・構成 西海 康平)

 現状に甘んじることなく、阿部は「進化」を追い求めている。両肩手術を乗り越え、昨年10月の世界選手権で3度目の優勝。同12月のグランドスラム東京大会は右膝痛などに耐えながら頂点に立ち、世界選手権代表に内定した。圧倒的な強さを示す一方、常に成長すべく精進している。

 「現状維持だと絶対に勝てなくなるので。毎試合毎試合、自分の柔道を進化させないとと思っています。自分が今できないこと、相手がされて嫌なことを考えながらやっている。少しずつ変化して、技を伸ばすことも意識して練習している」

 どれだけ強くなっても、より強くなろうと練習を重ねる。進化につながる「変化」とは何なのか。「たぶん…分かりにくいと思います」と笑いつつ、その一端を明かした。

 「昔から見ている方だと“こんな入りしていたっけ?”みたいな。組み方や技に入る一歩前の動作とか。そこにちょっと変化をつけないと、パリで2連覇はできないと思っている。柔道の幅を広げているし、新しい挑戦。東京五輪の時より少しずつ進化していると思うので、そこをぜひ(見ている人に)見つけてもらいたい」

 21年東京五輪で金メダルを獲得し、頂点に立った。同時に、再びライバルたちから追われる立場になった。以前に「世界中から研究されている」とも語ったように「対阿部詩」を多くの選手が意識している。

 「昨年の世界選手権から、いろんな選手が自分を倒しにくるのを感じている。3月の合宿にはフランスとイスラエルの選手が来ていたけど、私の組み手にさせなかったり、技に入る動きを止めてきたり。でも、それも逆にプラスかなと考えられるようになった。対策を生かす部分や対策を超えることも大事になる」

 女子52キロ級の先頭を走り続ける第一人者。追いかける相手がいない状況で、成長を続ける難しさはないのか。本人は笑顔で首を振った。

 「もちろん誰かを追いかけている時の方が絶対に楽で、負けてもマイナスにならないし、得ることしかないから。でも、今の私の立場は全員に追いかけられて、私が先頭を走らないといけない。すごくきつい時もあるけど、それは私にしか味わえないもの。そのまま走り抜けようという気持ちだし“苦しい”“嫌だな”とは思わないですね」

 この春、日体大を卒業して兄・一二三も所属するパーク24に入社した。社会人として柔道に打ち込んでいくことになり、より覚悟は固まった。

 「今までは学生でクラブ活動として柔道をやってきた。それが仕事となり、プロと変わらないような状況になる。責任と覚悟を持って柔道と向き合わないといけない。誰からも応援される人こそが一流のアスリートだと思うので、そうなれるように。そこの信念だけはぶれずに、感謝の気持ちを持ちながらやっていきたい」

 今大会で優勝すれば来年のパリ五輪代表に大きく近づく。全日本柔道連盟の規定で国内外の成績などを総合的に勘案し、2番手以下と明らかな差がついたと判断された選手は最速で6月にパリ五輪代表が決まるのだ。阿部が最大目標に掲げるのが「パリで2連覇」。そのために日々、畳の上で鍛錬を重ねている。「千里の道も一歩から」――。一日一日の積み重ねが4度目の世界選手権制覇、そして五輪2連覇につながる。

 《付き人の森和輝さんが全力サポート》阿部詩と共に「パリで2連覇」を目指すのが、付き人の森和輝さん(25=パーク24、写真)だ。阿部の兄・一二三と日体大の同期で、詩の強い要望によって19年秋から最も近い距離で支えてきた。練習相手だけでなく、移動時の車の運転やスケジュール調整など多岐にわたってサポートしており、詩は「365日のうち300日ぐらいは私の柔道を見てくれている。唯一無二の存在」と全幅の信頼を寄せる。

 森さん自身もパリへの思いは強い。「東京五輪までは少しサポートしただけで、彼女が元々やってきたことが実った。パリで優勝したら、自分も胸を張って“サポートできた”と言えるのかなと思います」。成長を図るため、練習や試合時に気づいたことは厳しいことでも全て本人に伝えるという。それも、互いの信頼関係があってこそ。二人三脚で歩みを進める。

 ◇阿部 詩(あべ・うた)2000年(平12)7月14日生まれ、兵庫県神戸市出身の22歳。5歳で柔道を始め、兵庫・夙川学院(現・夙川)中で15年に全国中学校体育大会で優勝。夙川学院(同)高1年だった17年2月のグランプリ・デュッセルドルフ大会でワールドツアー最年少となる16歳で優勝。世界選手権は18年に初制覇し、19、22年も優勝。女子52キロ級で21年東京五輪金メダル。今春に日体大を卒業。兄・一二三と同じパーク24に進む。得意技は内股、袖釣り込み腰。右組み。1メートル58。

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