「31―38」と「65188」がつくる日本ラグビー界の未来

[ 2022年10月31日 15:00 ]

<日本・NZ>試合中、モニターに映し出される観客動員数 (撮影・白鳥 佳樹)
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 日本人はつくづく、規律の高い国民だなと思う。観戦ルールに声出し応援の自粛が明記された10月29日のオールブラックス戦。6万5188人がスタンドを埋め尽くしたはずなのに、歓声は控えめで、リーチコールも遠慮気味だった。隣席の同僚の声もまともに拾えなかった19年の静岡や横浜の熱狂を知る者とすれば、物足りなさは明らかだった。だから声出しに制約がなく、6万人超が本気で日本代表を後押しすれば、結果はひっくり返っていたのではないかと、割と本気で思っている。それこそがスポーツの世界における最大のホームアドバンテージなのだから。

 通算7度目の対戦で最少となる7点差の敗戦は、間違いなく日本代表の進化を証明するものだった。いくつか象徴的な数字や場面はあるが、個人的にはゴール前のセットピースからトライを許さなかったディフェンスの堅さが印象的だった。前半9分ごろには5メートルスクラムから飛び出した相手No・8にリーチのタックルでノックオンを誘いピンチを脱出。22分には5メートルラインアウトでも相手モールを押し返した。少なくとも4年前なら、直接的あるいは起点となって、トライを許すシーンだった。

 記録的な大敗を繰り返してきたオールブラックス戦。19年W杯で初の8強入りを果たす前年の対戦でも、過去最多の5トライは奪ったものの、優劣の差は明らかだった。それが今回は残り1分で逆転可能な4点差まで迫った。日本代表がW杯時からまた一つ、階段を上ったことは間違いないだろう。ただし、NZと肩を並べるまで、あと何段上ればいいのかは、明確ではない。そこが厄介ではある。だからこそ進化を続けなければならない。

 稲垣や姫野ら選手が異口同音に「勝たなければ意味がない」と語るのは本音だろうが、一方で7点差の敗戦が与えるインパクトが小さくないのも、また事実だろう。

 例えば日本が目指すザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)への新規参入。7点差の敗戦は、NZをはじめ南アフリカやオーストラリアなど南半球の4協会が参入審査をする上で、有効なプラス材料になる。今すぐにTRC参入が認められなくても、コロナ禍もあり結果的に4年ぶりだったオールブラックス戦が、次は2年後に実現するかも知れない。そこは日本協会の幹部が今回の試合や現在開催中の女子のW杯ニュージーランド大会で相手幹部とコミュニケーションを図っており、何らかのオファーを出していることだろう。

 評価を上げたのは日本をここまで押し上げたジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチも同様で、19年W杯後も一時名前が挙がったように、オールブラックスの有力な次期ヘッドコーチ候補になるのは間違いない。長期政権の弊害を考慮しているようにみえる日本協会の土田雅人会長の口ぶりからして、2度目のW杯後に続投を推し進めるかどうかは微妙ながら、日本がNZとの争奪戦に勝てる交渉材料や契約内容を用意できるのか。ポストW杯の動きにも影響を与える結果となったのも間違いないだろう。

 そして、それぞれが多かれ少なかれ感情を押し殺し、歓声の代わりに拍手を送り続けた「65188」という数字も、今後の日本ラグビー界を明るく照らすものになるはずだ。日本のラグビーマーケットの大きさを内外に示したことで、日本協会が当面の目標に掲げるNZ協会と同等レベルの150億円の財政規模を達成するためにも、この数字のインパクトは大きい。試合が壊れそうな局面で何度も盛り返し、選手たちがつくり出した「31―38」とともに、価値ある数字であることが近い将来証明されることを願いたい。(記者コラム・阿部 令)

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