追悼連載~「コービー激動の41年」その53 相棒のフィッシャーが直面した兄のトラブル
2004年5月13日。プレーオフ西地区準決勝、レイカーズ対スパーズの第5戦で残り0・4秒から劇的な逆転シュートを決めたデレク・フィッシャーは、コービー・ブライアントにとって忘れがたい大切なドラフト同期生だった。レイカーズでは計13シーズンにわたってチームメート。スパーズ戦だけでなく、多くの試合でブライアントが相手チームに密着マークされたときに局面を打開する「第2の選択肢」して活躍。ブライアントは「生まれついてのリーダーだった」とその後、NBAで選手会長を務める“相棒”に絶大な信頼感を抱いていた。ただしDVの父を持ったレイカーズのジェリー・ウエスト元GM同様、フィッシャーも家庭的な問題を抱えていた。
フィッシャーには10歳年上の異母兄弟がいる。それがデュエイン・ワシントン。ミドル・テネシー州立大時代に2度、NCAAトーナメントに進出し、1987年のNBAドラフト2巡目(全体36番目)でブレッツ(現ウィザーズ)に指名された193センチのシューティング・ガードだった。
この年の全体トップ指名選手はデビッド・ロビンソン。海軍士官学校のスーパーセンターがスパーズ入りを決めたドラフトだった。5番目には当時まだ無名に近かったスコッティー・ピッペン(セントラル・アーカンソー大)がスーパーソニックス(現サンダー)に指名され、その“明るい未来”が見えていなかったスーパーソニックスが8番目にブルズに指名されていたセンターのオルデン・ポリニス(バージニア大)欲しさにトレードで放出してしまったという「ああもったいない事件?」が起こった年でもあった。
ブレッツはワシントンより先の1巡目、全体12番目に身長160センチの超小兵、マグジー・ボーグズ(ウェイクフォレスト大)を指名しているので、ワシントンはチームでは2番目の指名選手ということになる。それだけ期待も大きかったはずだ。だがあえなくカットされてしまう。そしてNBAとは別組織、コンティネンタル・バスケットボール・アソシエーション(CBA)に所属するラピッドシティー・スリラーズでプロデビューを飾った。チームの地元はサウスダコタ州。NBAに残っていれば日本の八村塁同様、米国の首都ワシントンDCでのデビューになったはずだが、一気に「都落ち」してしまった。
それでも翌1988年にNBAのネッツからお呼びがかかった。CBAは格下のリーグとは言え、スリラーズは前年のリーグ王者。そこを評価され、ネッツと10日間契約を結んだワシントンはようやくNBAの舞台を踏んだ。
このシーズン、7万5000ドル(当時のレートで約1100万円)のサラリーをもらったワシントンは15試合に出場して1試合平均得点は3・6。先発は一度もなかったものの、FG成功率43%、3点シュート成功率50%、フリースロー成功率80%という数字はこの部類の選手としては決して悪くはない。次のシーズンに希望を抱かせる内容だったことがスタッツからはうかがえる。
だが当時12歳だったフィッシャーに、それまでヒーローだった兄の不祥事を告げるニュースが届いた。1988年10月、NBAはワシントンに対して薬物規定違反による2年間に及ぶ出場停止処分を科した。尿から検出されたのはコカイン。競技能力の向上に直結する筋肉増強剤でも興奮剤もなかったところが時代の様相を漂わせているが、それでも許されるものではなかった。
ここからフィッシャーにとって英雄だった兄の人生は下降線をたどっていく。下部組織でプレーを続け、92年シーズンにクリッパーズに拾われて4試合だけ出場したものの無得点。1994年からはフランスを皮切りに欧州や南米でバスケ人生をかろうじてつないでいた。フィッシャーがレイカーズにドラフト全体24番目に指名された1996年にはベネズエラとスペインでプレー。1998年に再びCBAに戻ったが、34歳で迎えたこのシーズンを最後に現役に別れを告げ、弟とは対照的にスポットライトは浴びなかった。しかも悪いニュースが重なっていく。フィッシャーにとってはつらい日々が続いた。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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