服部勇馬、五輪延期でも折れない心…3・11も乗り越えた26歳「環境が人を成長させる」

[ 2020年4月9日 07:00 ]

静かな環境で練習に励む服部勇馬。五輪へ向けて1年以上の長きにわたる闘いが再び始まった(撮影・小海途 良幹)
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 東京五輪マラソン男子代表の服部勇馬(26=トヨタ自動車)が愛知県田原市内でスポニチ本紙の単独インタビューに応じ、1年延期が決まった東京五輪への思いを語った。延期決定で気落ちも、自己ベストを上回る2時間5分台を新たなモチベーションに再始動。また、7都府県に緊急事態宣言が発令され思うような活動ができない若きアスリートに向け、「3・11」を乗り越えた自身の経験を踏まえて熱いメッセージを送った。

 《闘争心に火をつけた大迫の日本記録》東京五輪が21年7月23日開幕と正式決定した今年3月30日。服部は練習拠点とする愛知県田原市内の選手寮で、スマートフォンに流れたニュース速報で新日程を知った。

 「1年延期がベターなのかな、と思っていた。マラソンは最終日の8月8日になる。期日が決まってからも特に意識の変化はあまり変わらないのが正直なところですね」

 大会延期が決まってからは、心が落ち着かないこともあった。元日のニューイヤー駅伝で負ったケガも癒え、やっと五輪に向けて試合に出場していこうかとしたとき、目標が遠ざかった。

 「心がぽかーんと空いちゃったときはありましたけど、自分の能力を高められる期間と切り替えられた。多少、閉塞感は感じながらも練習できています」

 1年以上の長きにわたる戦いが再び始まった。服部はモチベーションを保てる理由の一つに大迫傑(28=ナイキ)が3月の東京マラソンで2時間5分29秒という日本記録を出したことを挙げる。自分のマラソン観すら揺らいだ大記録に、大いに刺激を受けていた。

 「これまでは2時間7分、8分でも優勝すれば良いという考えでしたが、大迫さんの走りを見て速さも高めたいと思いました。東京マラソンでは6分台、7分台の選手も多く、僕が目指すところは、あまりにも低かったので自分に腹が立ちました。2時間5分台に挑戦するとシフトできたことが、モチベーションを保つ上で大きかった」

 《高3で被災…練習場は遺体安置所に》新たな挑戦に踏み出そうとした矢先、未知のウイルスの影響で、予定していた競技会は全て中止。強化プランに狂いが生じた。ただし、同じようなことは9年前に経験していた。2011年3月11日。仙台育英高3年時に東日本大震災で被災。練習場は遺体安置所となり、放射能との戦いもあった。新潟の実家に一時帰省した時期は、ウイルスという見えない敵におびえる現在と変わらない状況だった。

 「震災後は、現在と同じような感じで、この先どうなっていくのかという不安はありました。直近の目標に向かって行くしかなかった。仙台に戻ってからはインターハイを目標に、東北大会の1500メートルで2位になりましたが、1位は福島・いわき総合の選手。僕以上に大変な状況にいる選手に負けたことで、もっと頑張らないと、と思いました」

 《冬場の練習は創意工夫で最大限努力》服部には自分ではどうしようもない状況下でも努力を続けられるメンタルの強さがある。故郷は新潟県十日町市。冬季は雪で閉ざされて屋外の練習はできないが、創意工夫で乗り切ってきた。

 「小学校はサッカー部でしたが冬は体育館でうさぎ跳びとか基礎体力をつけるだけ。中学校で陸上部に入りましたが、雪が降ったら陸上練習はできず、クロスカントリースキーで体づくりがメイン。与えられた環境でできることを最大限やるだけでした。今も、力を付ける時間が1年増えたと思っています」

 雪が降らない地域の選手と練習量に差が生じたが、中学時代には都道府県対抗男子駅伝に新潟代表として2度出場。3年時には区間4位になるなど、逆境もバネにして力を付けてきた。

 「(他地域は)雪が降らなくていいなと思ったことはありましたが、劣っているとは思わなかった。雪が降るのは当たり前。その中でどうするか、しか考えていなかった。雪を言い訳にはしたくなかったんです。今も同じ。この状況を言い訳にはしたくないです」

 そして今、窮屈な思いをしている子供たちへ、自分の経験から何か感じ取ってほしいという思いがある。

 「一日一日、継続して取り組むことができれば強くなる。でも実際は難しいと思います。僕も高校のときに自分たちで練習しろと言われ、弟と走ったりしたけど、結局練習不足で体重が増えて怒られました。むやみに外出するのは駄目ですけど、裏を返せば自分がやりたいことに熱中できる良い機会。こういう環境が人を成長させると思います」

 ≪トヨタ自動車・佐藤監督「守っていかないと」≫自身のキャリアで初めて日本人五輪選手を指導する佐藤敏信監督(57)は、1年延期された東京五輪について「多分、夏開催だろうと読んでいました。1年延びましたが、今年やる準備をスライドする感じでそこまでの影響はないです」と冷静に受け止めていた。
 不安材料は競技会の中止が相次ぎ試合勘が鈍ってしまうことだが、4月に加入したロンドン五輪男子1万メートル5位のビダン・カロキ(29)と服部を競わせることで解決しそうだ。佐藤監督は「カロキは世界選手権にも出ている。そういう選手と練習が合うときは一緒にやらせています」と相乗効果を狙う。
 合宿も未定で指導者としての悩みは尽きないが「日本人で初めて五輪選手を出すので、経験のある監督にいろいろ聞きたい。五輪までの期間も長いので服部を守っていかないといけませんからね」と親心も見せた。

 ◆服部 勇馬(はっとり・ゆうま)1993年(平5)11月13日生まれ、新潟県十日町市出身の26歳。仙台育英高から東洋大に進学。箱根駅伝で花の2区で2年連続区間賞。16年2月、初マラソンとなる東京マラソンで12位。18年12月の福岡国際では2時間7分27秒で日本人として14年ぶり大会制覇。昨年9月のMGCで2位となり東京五輪代表に決定した。1つ年下の弟に弾馬(はずま、トーエネック)がいる。自己ベストは1万メートル28分9秒02、マラソン2時間7分27秒。1メートル73、63キロ。

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