データで見る八村の第15戦 「マイルハイ」の洗礼?日本では存在しない高地での試合

[ 2019年11月27日 14:21 ]

大雪に見舞われたコロラド州デンバー市内(AP)
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 ウィザーズは26日にコロラド州デンバーでナゲッツと対戦したが104―117で完敗。八村塁(21)はダンク2発と、第3Qに決めた3点シュートで7得点を記録したが、フィールドゴール(FG)の成功は10本中3本で、ジャンプシュートに限ると成功したのは8本中、3点シュートの1本だけだった。

 この日のデンバー市内は大雪で銀世界。試合開始時の気温は氷点下6度だった。しかも標高は5280フィート(1609メートル)でこれは1マイルと同じ。空気抵抗は平地の88%ほどしかなく、NBA1年目の八村にとっては「マイルハイ・シティー」と呼ばれる敵地で自分のシューティング・タッチを保つのは、たとえ本人が感じていなくても難しかったはずだ。

 苦しんでいたのは何も八村1人ではない。今季リーグ4位の29・6得点を挙げていたブラドリー・ビール(26)は30分出場したものの14得点どまり。FG成功は15本中6本で、今季の成功率が35・0%だった3点シュートは10本中2本しか決まらなかった。

 ウィザーズ全体の今季のFG、3点シュート、フリースローの成功率は48・1%、37・9%、80・9%だったが、この日のナゲッツ戦では42・1%、25・0%、66・7%とすべて下回った。デンバーにやってきてシューティング・タッチに狂いが出てしまうのは他のチームも同じ。20日にここで試合を行ったロケッツは今季117・9点(リーグ3位)をマークしていたにもかかわらず95点に終わっていた。22日に対戦したセルティクスの3点シュートの成功率は25・9%とウィザーズ同様に低迷。24日に顔を合わせたサンズのデビン・ブッカー(23)は今季24・8得点を記録していたが、デンバーでは今季自己最少の12得点しか稼げなかった。

 日本のBリーグ(B1)所属の18チームの中で、もっとも標高の高い場所を本拠としているのはブレックスの宇都宮だが、それでも100メートルほどでしかない。ところがNBAを含め、北米4大スポーツでは陸上競技ならば高地記録(1500メートル以上)となってしまうデンバーで試合を行う“宿命”が待っている。

 大リーグのロッキーズが使用しているクアーズ・フィールドは本塁打量産球場として有名だし、NFLの最長フィールドゴール(FG)が記録されたのもデンバー。2013年12月8日、ブロンコスのマット・プレイターがフィールドの半分以上の長さとなる64ヤードのFGを決めたときの気温は氷点下11度で、この日のウィザーズ対ナゲッツ戦と気象条件は酷似していた。

 ナゲッツの3点シュート成功率もウィザーズと同じ25・0%だったが、点差が開いたために主力の出場時間が減った影響もある。FGでは52・2%とウィザーズを大きく上回っており、地元に9日間滞在しているというアドバンテージはきちんと生かされていた。

 たかが1600メートルほど、と思われる方もいるかもしれない。しかしNBAではこの“高地”で苦しんだ有名なスーパースターがいる。

 それがマイケル・ジョーダン。1997年のファイナルでジャズと対戦したとき、彼は第3戦から第5戦まで敵地ソルトレイクシティー(ユタ州)に滞在することになったが、第3戦と第4戦と敗れて2勝2敗となったときに異変が生じた。

 実はブルズは市内の喧騒を回避するために2002年冬季五輪の競技会場にもなったパークシティーのホテルに宿泊したのだが、ただでさえ1288メートルと標高の高かったソルトレイクシティーから2134メートルのパークシティーに片道40分をかけて移動し続けたために、バスケの神様の体が悲鳴をあげた。

 ジョーダンは第5戦の前日となった1997年6月11日の午後11時。個人トレーナーに電話して体の不調を訴える。公式発表では「ピザに当たって食中毒を引き起こし、ウィルス性胃炎にもなった」とのことだったが、誰もが酸素の少ない高地に滞在した影響による免疫力低下だと確信していた。私はそのときのファイナルを取材していたが、試合会場となっていたジャズの本拠地「デルタセンター」にやって来ると、各所から「ジョーダンが欠場するぞ」という声が沸き起こっていた。

 もっともこの逆境を気力だけではねのけるのがジョーダン。試合前の練習もせずにぶっつけ本番で試合に臨み、最後は同僚のスコッティー・ピッペンに抱きかかえられるほどに疲労困憊になりながら、38得点を挙げてチームを90―88での勝利に導いた。しかも残り25秒に決勝の3点シュートを決めたのもジョーダン。38度の発熱がありながらの驚異的なパフォーマンスで、この試合はその後「FLU・GAME(風邪の試合)」と呼ばれて歴史にその1ページを刻んでいる。

 ロードレースに出ている方ならわかるかもしれない。私のハーフマラソンのワーストタイムは弊社主催の山中湖ロードレースで記録されたもの。晴れていれば抜群の絶景を楽しめるが、標高980メートルの山中湖の周回コースでは最後まで「ランニング・ハイ」が来なかった。シニアバスケのチーム仲間も参加していたが、フルマラソンでサブ4を達成している1人は途中で棄権し、ハーフのベストタイムで私より10分以上も早かった6つ年下の後輩は最後の上り坂でフラフラの状態。平地で日常生活を送っている人間がちょっとでも高い場所に行くと、今まで知らなかった自分?と顔を合わせることになる。

 ワシントンDCの標高は0~125メートル。どんなにすぐれたスポーツ選手であっても、いきなり米国の首都からデンバーに足を踏み入れると歯車が狂う。それがこの日のウィザーズだったと思うが、これもNBAの宿命。“マイルハイの洗礼”を頭脳にインプットして、次につなげてほしい。(高柳 昌弥)

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2019年11月27日のニュース