サッカーW杯あと100日 森保監督と侍ジャパン栗山前監督 代表指揮官の熱き対談
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サッカーW杯北中米大会が開幕する6月11日まで、3日で100日となった。4年に1度のメガイベントに向け、優勝を目標に掲げるサムライブルーの森保一監督(57)と、23年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で侍ジャパンを頂点に導いた日本ハムの栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサー(CBO=64)の対談が実現。世界一の挑戦者と達成者が最高の景色への道筋を語り合った。(秋村 誠人、木本 新也)
【森保監督 オランダ戦重要も全てではない】
森保監督 WBC開幕前にもかかわらず、サッカーの方まで盛り上げていただき、ありがとうございます。
栗山氏 少しだけ監督の頭の中をお聞きできればと思います。 (※以下敬称略)
森保 頭の中はスカスカかもしれませんが(笑い)。
栗山 まず1次リーグの抽選結果をどう捉えていますか?
森保 平均値の高い強豪ぞろいのグループ。どこが勝っても、どこが消えてもおかしくない。レベルの高い組だと思います。
栗山 何が起きてもおかしくない組ですね。先に進めない可能性もあるというプレッシャーはありますか?
森保 あります。あってはいけないが、先に進めないこともあり得る。優勝もできると思っていますけど、先のことばかり考えて、油断や準備不足があれば痛い目に遭う。ポット4に入る欧州プレーオフの国はストレートでW杯に来ていてもおかしくない国ばかり。チュニジアは監督が代わり選手起用や戦術も変わると思うので、もう一度、対策を練り直さないといけない。オランダはご存じの通りタレントが豊富です。
栗山 WBCの時は最初の入りが肝心だと思っていました。初戦が強豪国のオランダになったことをどう捉えていますか?
森保 最初が緊張感を持って戦える相手なのはポジティブです。初戦は重要ですが、全てではない。1次リーグは3位通過もあるので、初戦に負けたらダメというメンタリティーにはならない方がいい。前回のW杯カタール大会は優勝したアルゼンチンも初戦を落とした。初戦に勝つことが想定内だとすれば、想定外のことが起きても慌てずに力を発揮し続ける準備をしたい。日本全体が、勝てばこのまま優勝、負ければもうダメみたいな雰囲気になると思うが、自分たちは一喜一憂せず雰囲気に巻き込まれないようにしないといけない。
【栗山氏 一発勝負で気をつけることは?】
栗山 出場チームが48に増えて試合数が増えます。優勝にはトーナメントで5回勝たないといけない。WBCは準々決勝からトーナメントで、それまで4番に据えていた村上選手の打順を変えるなど戦い方を変えました。負けたら終わりの戦いはリーグ戦とは違う。一発勝負で気を付けることはありますか?
森保 私はあまり変えない方がいいと思っています。トーナメントでいろいろ変えて、選手が混乱したりストレスになることはやらない方がいい。ただ前回のカタール大会では決勝トーナメント(T)1回戦で対戦したクロアチアが1次リーグで日本がやったことを分析して対応してきた。相手が戦術的にかぶせてきても、さらにかぶせられるよう、常に相手の策の上をいく、後出しジャンケンのできる準備をしないといけないとは考えています。
【栗山氏 野球にはない重圧かかるPK戦】
栗山 決勝TではPK戦も考えないといけない。前回カタール大会のクロアチア戦のキッカーは立候補制で決めたと聞きました。日本中が見ている中で、全てを背負う。皆の努力などを含めた状況を分かって“俺行きます”と言えるのは凄いし、“行ってくれ”と託すことも生半可なものではない。監督として凄い決断ですが、今回も同じ方向性でいくつもりですか?
森保 実は前回も作戦板の中では順番を決めていました。でも選手に蹴りたいかを聞きながら立候補制に変える判断をしました。今回は現段階では順番を決めて選手に託す形を取ろうと思っています。自分が全ての責任を負うつもりでいても、失敗すれば選手に重いものを背負わせてしまうので。ただ選手の“俺が行く”という思いも尊重してあげたい。勇気を持って手を挙げることは必ず選手の成長につながるので、背中を押してあげたい思いもあります。
栗山 それにしてもPKのプレッシャーは凄いですよね。野球ではあそこまで重圧のかかるプレーはないですが失敗したら“お前のせいで負けた”となる点では、ここ一番でバントが決まったら点が入るという時の緊迫感と似ている。もし僕がサッカーの監督ならPKキッカーは僕の方で決めます。選手の重圧を考えると、失敗した時の責任が自分に来るようにしておきたい。ただ選手が“俺に蹴らせてください”とあの場で言えたら、成功しても失敗しても、その選手を確実に大きくする。言えた選手に感動して“任せた”となるでしょうね。
森保 PK練習は前回のW杯の時もしていましたが、今回は大会前だけではなく4年間の活動の中で継続しています。全部データを取って、選手には“もし蹴るなら何番を蹴りたいか?”もインタビューしています。メンタル面が大きく左右するので練習の意味がどれだけあるのか分からない局面ではありますが、選手が落ち着いてPKに挑める環境はつくっていきたい。
【森保監督 英国遠征で見てみたい選手いる】
栗山 僕も監督をやっていた時に質問されて答えようがなかったんですけど、メンバー選考があります。WBCの時はダルビッシュの存在が大きかった。彼は調子が悪かったけど、人と人をつないだり、“思い切りやれ”と言って皆に安心感を与えてくれたりしました。そういう意味で長友選手の存在も大きいのかなと思ったりします。話せる範囲で構いませんが、メンバーは固まりつつある?
森保 大枠の構想はあります。基本はこれまで見てきた選手ですが、今月下旬に英国遠征があり、まだ見てみたい選手もゼロではない。長友は経験値が高く、まだまだ動けて、しかも一番ギラギラしている。その選手が監督、コーチとは違う目線で経験を伝え、チームのための言動をしてくれることは大きな影響力がある。ケガ人の見極めもあるので、最後のコーチミーティングは激論になると思います。
栗山 各選手の生きざまや、思いを感じれば感じるほど判断の難しさも出ます。選ぶのは本当に大変な仕事。最後にメンバーを決めるけど、それは答えじゃないんですよね。他の選手を入れても絶対に機能するはずだし、決めた後も“あの選手を選んでいたら”と思いを描いたりしてしまったりもします。日本の選手は世界のいろいろな国でプレーしていて、いろいろな時間に試合をしている。ずっと試合を見ている感じですか?
森保 ずっと見ています。リアルタイムでは限界があるので録画で見ることも多い。メンバー選考では見ることが何よりも大切。所属クラブでの日常のプレーを見ることは、ある意味で代表活動期間中の練習以上に重要な部分がある。どういうコンディションで、どういう戦術の中で、どういう役割でプレーしているかを把握した上で招集し、できる限り所属クラブでやっていることを生かそうと考えています。
栗山 森保監督をはじめとするコーチ陣が、日常のプレーを真剣に見ていることが、選手の特徴を外さないことや、コンディション把握につながり、選手から信頼を得られているのだと感じます。試合を見ていて、皆がチームが勝つために動いているのが伝わってくるのも、強い信頼関係があるからですね。
森保 それはWBCで栗山さんに見せていただいたものです。個の強さはめちゃくちゃありながらも、チームで戦っていた。野球の皆さんからはいつも刺激を受けています。今回のWBCもおそらく世界一になられると思いますが、我々もサッカーで世界一になって日本を盛り上げたい、というモチベーションになります。今年は冬季五輪、WBC、W杯、アジア大会とビッグイベントが続くので、良い形でスポーツをつないでいきたい。栗山さんにお会いできて学べたことも、自分の引き出しにさせていただきます。
《2人の共通点は「魂」重視》 森保監督には栗山氏と共通するものを強く感じた。それは選手たちの「魂」を重視していることだ。「魂」は根性とは違う。仲間のために、チームのために、そして日本のために。その思いがチームを強くし、23年WBCのように国際大会を勝ち抜く力となる。
85年の入社後、サッカーを担当していたとき。メキシコ五輪の日本代表監督だった長沼健さん(元日本サッカー協会会長)にこんな話を聞いた。「日本サッカーの父」デットマール・クラマーさんが来日当初「大和魂はないのかッ!」と叱責(しっせき)した日本代表が、68年メキシコ五輪で銅メダルを獲得。3位決定戦で地元メキシコに勝った後、ロッカーで精根尽き果てて起き上がれない選手たちを前に「大和魂はありましたか」と聞くと、クラマーさんは「大和魂は今、目の前にある」と答えたという。長沼さんは「それを聞いて涙があふれて止まらなかった」と話していた。
100日後。森保ジャパンの「魂」が新たな歴史をつくるのを楽しみにしている。 (専門委員・秋村 誠人)
《栗山氏 自身の経験を踏まえた森保監督への配慮》会場に姿を見せた栗山CBOは「対談はできるだけ手短にしましょう」と切り出した。侍ジャパンの監督時代に取材や対談で何度も同じ類いの質問を受けた自身の経験を踏まえた森保監督への配慮だった。森保監督も選手、スタッフ、ファン、報道陣らへの気配りは半端でない。飛行機移動で座席数に限りのある上級シートを選手に譲り、エコノミー席に座ることもある。トップダウン型ではなく、選手と一緒にチームをつくり上げるリーダーの共通点を感じた。
対談では進行役を務める予定だったが、栗山CBOの巧みな仕切りで2人の話は弾み、入る余地がなかった。簡単な事前打ち合わせで伝えたポイントを確実に押さえ、予定より10分近く早く終了。野球殿堂入りした世界一監督の“采配”はさすがだった。傍観者と化した記者は同席した編集局長から「楽な仕事だったな」と冗談交じりに突っ込まれたが、最高の素材を生かすには余計な手を加えないことが鉄則。良い仕事ができたと納得している。(木本 新也)
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