綺世は大学時代からモンスターだった 法政大時代の恩師・長山一也氏が語る凄さ
今季も相手サポーターから「理不尽」と恐れられたパワーショットを何度も決めた日本代表FW上田綺世(23)は大学時代から“モンスター”ぶりを発揮していた。11月開幕のW杯カタール大会でもメンバー入りが期待される若きストライカーはフィジカルだけではなく、練習に取り組む姿勢も怪物級。法大時代に指導した長山一也氏(40)に“ニュー・モンスター”の原点を振り返ってもらった。
水も漏らさぬ鉄壁の布陣を敷いても、規格外の一発で試合を決める。相手サポーターから「理不尽」とも呼ばれる上田は大学時代から異次元の存在だった。成長を見守ってきた長山氏はいう。「綺世のシュートは外国人選手並み。指導して教えられるものじゃない。大学サッカーの枠には収まりきらない選手だった」と振り返る。
怪物のベースとなるのは、やはりフィジカルだ。今でこそ1メートル82、76キロと日本代表FW陣の中でも一、二を争う体格の持ち主だが、鹿島の下部組織に所属していた中学時代には線が細いこともあってユース昇格を見送られたほどだった。ただ、当時の上田を診断したドクターは「筋肉は付きやすいタイプ。肉体的には良いものを持っている」と非凡な能力を認めていた。
長山氏が上田のフィジカルの強さに舌を巻いたことは何度もあるが、最初は入学前。法大の練習試合で年上の大学生の頭上から強烈なヘディングシュートを決めた場面だ。「あれを見て獲得を決めました」と振り返るほど、高校3年間で成長した上田は、か細い少年ではなかったという。
今季Jリーグで何度も見られた「理不尽ミドル」の原型は1年の17年総理大臣杯決勝にさかのぼる。後半22分、劣勢の中でも距離があったにもかかわらず放った一発が決勝点に。入学直後から体力測定でチームトップの数値を叩き出した逸材は、一振りで試合を決められるエースとなった。「日本人離れした内転筋の強さもあると思うが、シュートが綺世の強さ。フリーキックも裏抜けもある。得点に特化しようと努力していた」と感じた。
練習の虫ならぬ、練習の“モンスター”でもあった。全体練習後にはほぼ毎日、後輩を引き連れてシュート練習に明け暮れた。ただのシュート練習ではなく、ボールを受ける体の向きや足の振り方など実戦を想定して細部にこだわった。長山氏は練習の鬼となった上田に目を丸くしていたというが「プロでもそこまでやらないくらい、居残り練習のレベルを超えていた。それがシュートのバリエーションにつながっている」とみている。
ケガからの回復力も常人のそれを凌駕(りょうが)するモンスター級だ。18年全日本大学選手権では上半身をケガしていたが、30分限定で優勝に貢献。東京五輪は直前に肉離れしたが、ぎりぎりで戦列復帰した。「時間限定でも仕事してくれる。普通の選手なら間に合わない」と笑う。
日本を代表する点取り屋となった男は今季J1トップの10得点を挙げベルギー1部セルクル・ブリュージュへ新天地を求めた。W杯のメンバー入りも期待される上田には常々「世界で戦える選手になろう」と伝えていたという長山氏は「日本人にこんな凄いストライカーがいることをゴールで証明してほしい」と怪物が世界で大暴れすることを期待している。
◇長山 一也(ながやま・かずや)1982年(昭57)4月1日生まれ、鹿児島県出身の40歳。山梨・帝京三高から法大に進学し、MFとして活躍。卒業後はJFLアローズ北陸に加入し、10年にJ2富山で現役を引退した。14年から法大サッカー部監督に就任し、総理大臣杯などのタイトルを獲得。現在は同部アドバイザーで、JFAのS級公認コーチのライセンス取得に向けた養成講習会を受講している。
◇上田 綺世(うえだ・あやせ)1998年(平10)8月28日生まれ、水戸市出身の23歳。茨城・鹿島学園高から法大へ進学。19年夏に法大サッカー部を退部し、前倒しで鹿島へ加入した。5月29日のFC東京戦でクラブの日本人選手として26年ぶりとなる3年連続2桁ゴールを達成。今年2月にはモデルの由布菜月(24)と結婚を発表した。昨年は東京五輪にも出場。日本代表では9試合0得点。1メートル82、76キロ。利き足は右。
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