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8年ぶりのJ1は「夢の先」にある場所 徳島MF岩尾憲主将インタビュー「いい感じのチューニングで」

[ 2021年2月19日 05:30 ]

好きな言葉として「学び」と色紙に記した徳島・岩尾
Photo By スポニチ

 5季連続で徳島の主将を務めるMF岩尾憲(32)が、26日のJリーグ開幕を前に、オンラインによるスポニチ本紙のインタビューに応じた。これまでの歩みを振り返るとともに、自身にとって8年ぶりに迎えるJ1への思いなどを語った。

 8年前、岩尾は湘南の選手だった。今ではJリーグでも知られるボランチとなったが、大卒3年目の男には、まだ実力が伴っていなかった。それ以上に、気持ちが追いついていなかった。

 「余裕は全くなかったですね。J1の名だたる選手、日本を代表する選手、屈指な外国人選手、ビッグクラブのエンブレム。鹿島の大迫選手や広島の佐藤寿人選手、青山選手。新潟のレオ・シルバ選手や川又選手とかを見て“オッ”てなってましたね。いろんなものに夢見る少年だった自分がプレーするのは、どこか現実的ではなかった。プロフェッショナルじゃなかったと思うし、ボランチとして機能していた記憶は一切、ないです」

 国内最高峰の舞台で直面した壁。ただ、今季で11年目を迎えるプロ生活を「挫折だらけの人生」と振り返る。群馬県立西邑楽高から、保健体育の教員免許を取得するため日体大へ入学。「“プロサッカー選手になりたい”なんて意識は1%ぐらい。群馬の高校で教員をしようと思っていた」という。湘南のスカウトの目に留まりプロへの扉は開いたが、待っていたのは苦難の連続だった。

 「1、2年目に3回、手術をしました。右足第5中足骨、腰椎椎間板ヘルニア、右股関節唇損傷。2年間のうち、合計で1年間ぐらいプレーできなかった。2回目までは“しょうがない”という感覚だったけど、3回目は違って。これは偶然じゃなく、必然と捉えるべきだと思って“それは何なんだろう”と入院している部屋でずっと考えていた。自分は幼い時からサッカーをやらせてもらっていて、その時から卒業文集とかにも書くぐらい、プロサッカー選手になると自分にも周りにも言い続けてきた。でも、ふと振り返ると“俺ってサッカー選手になるのが夢だったんだな”と。なっちゃったんですよ。夢をかなえた夢の中にいるような。その先をイメージできていない選手が、人生を懸けて勝ち負けを争っているプロの世界で結果を残せるはずがない。自分の思考と、今起きていることが結びついた感覚があった。そこからですね。プロでやるなら、ここからもう一回、目指す場所をしっかり決めないといけない。じゃないと俺は進んでいけない。“自分は何になるんだ”というのを病院で凄く考えました」

 当時、病室で定めた目標は6年後に控えていたロシアW杯への出場だった。「とりあえず代表選手の人生歴をあさろうかと思って、手当たり次第、代表選手の本を読んでいました」と本人は笑いながら当時を懐かしむ。15年に期限付き移籍した水戸でポジションをつかみ、16年に徳島へと完全移籍をする。移籍の流れが速いクラブにあって、気づけば在籍6年目となった。

 「ありがたいことに、2年に一回ぐらいは自分もお話(オファー)をいただいていました。でも、けっきょくロシアW杯に行けなくて、少し考え方に柔軟性を持たせないといけない年齢に差しかかってきた。そうした時に少しJリーグを俯瞰(ふかん)して見てみると、ものすごい数のクラブがあって、プロサッカー選手も山ほどいる。その中で、自分がサッカー選手として生きていく上で、生存戦略をどこに置くのか、どこに付加価値を置くのかというところを考えないと生きていけないなと思ったし、そこに面白みを感じたところもあった。育成型クラブを掲げている徳島ヴォルティスでしたけど、そんな買って売ってという単純な話ではなく、もう少し哲学的な。“給料がちょっと上がって、ここを踏み台にしてもっと上がるから徳島っていいよね”じゃなくて。徳島に行くと、どんなことを大事にして、どういう人間が求められていて、どんな人間に成長できるのか。その先がステップアップならそれでいいし、ステイでもいいし。そこに選手の選択肢がなかった。その選択肢は作った方がいいし、作っていくべきだと考えて“自分にもできることはあるんじゃないかと思って残っています”という感じです」

 徳島でキャリアを積み重ねてきた。17年から主将を務め、あと一歩で昇格を逃すこともあったが、紆余(うよ)曲折を経て、昨季にJ2を制覇した。今季、クラブにとっては7年ぶりとなるJ1を迎える。

 「具体的な戦術や戦い方は監督に依存するところがあるので。ただ、少なくとも、昨年同様にスペシャルな選手がいないというか、誰も特別じゃないのが徳島。そういった集団が、日本人のコミュニティー力というか、戦術に頼るんじゃなく、自分たちのあり方や助け合いで補ったりとか。“人間らしさ”で戦いたいなと思います。勝った負けたがあって、当然、勝ちを目指しますけど、それで負けたら恥ずかしいとは全く思っていないので。“負けるなら堂々と負けます”という感じなので。そこがあやふやなまま、漠然と勝った負けたはしたくないですね」

 個人としては13年以来の舞台となる。湘南の一員として戦ったJ1は、7試合の出場のみだった。

 「“止めて蹴る”や“試合の流れを読む”ところは自分の武器としていますけど、J2より相手のレベルが上がるので、非常に難しい戦いになると思う。その難しさを自分なりにどう分析して、一撃を入れたり、一石を投じられるか。猛者たちを相手にワクワクもしているし、でも、どこかでうまくいかない覚悟もしている。期待し過ぎていないし、期待もしている。いい感じのチューニングで臨みたいです」

 夢見心地だった8年前とは違う。地に足をつけた背番号8が、平常心で新たなシーズンに挑む。

 ◆岩尾 憲(いわお・けん)1988年(昭63)4月18日生まれ、群馬県館林市出身の32歳。兄の影響でサッカーを始め、多々良FC、図南SC、多々良中、西邑楽高、日体大を経て11年に湘南入り。15年に水戸へ期限付き移籍し、16年に徳島へ完全移籍。J1通算7試合出場0得点。J2通算276試合出場23得点。1メートル75、65キロ。利き足は右。

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