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【世界のアスリート】41歳“不屈の母”跳馬決勝最高難度に挑戦

[ 2016年8月9日 10:33 ]

平均台で演技を観客の声援に応えるチュソビチナ(AP)

 長い旅を続けている。旧ソ連で初代表。崩壊後は独立共同体(CIS)のメンバーとして92年のバルセロナ五輪に出場し、団体で金メダルを獲得。そして母国ウズベキスタンの独立とともにユニホームは替わった。

 97年に同郷のレスリング選手と結婚。その2年後に長男が生まれた。ところが02年、息子が白血病と診断されて路頭に迷う。治療費を工面できなかったのだ。もしこの時、ドイツ・ケルンの体操クラブが「治療費捻出の基金を設けるキャンペーンをやるからこっちに来なさい」と声を掛けてくれなければ、母も父も息子も違う運命と向き合ったかもしれない。

 そしてオクサナ・チュソビチナは41歳になった。ドイツ国籍を06年に取得したが、リオデジャネイロには再びウズベキスタンの代表として出場。ケルン郊外の練習場では10歳以下の子供たちに交じって1児の母が練習を重ねているが、その光景を奇異に感じる人は誰もいなくなった。

 7日の体操女子予選。チュソビチナは08年の北京五輪(当時ドイツ代表)で銀メダルを獲得した跳馬で14・999をマーク。「年齢なんて何の意味もない。条件はみんな一緒」と通算7度目の五輪でも見事な演技を見せ、5位で種目別の決勝に駒を進めた。

 「ジカ熱?大丈夫よ。妊娠するためにここに来たんじゃないから」と笑いとばす体操界のレジェンドに対し、17歳になった息子のアリシャーは「ママ、これが最後?」と引退するのかどうかをたずねている。返ってきた答えは「ちょっと待っててね」。種目別決勝では最高難度のプロドノワ(前転跳び前方抱え込み2回宙返り)に挑戦する予定。長い長い旅はまだ続きそうだ。

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2016年8月9日のニュース