乙武洋匡氏 障がいに応じた創意工夫 トレーニングも奥深い

[ 2021年8月30日 05:30 ]

大車輪の活躍で車いすラグビー銅メダル獲得に貢献した池崎(右)と写真に納まる乙武氏
Photo By スポニチ

 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(6)】試合終了のブザーと同時に、キャプテンの池透暢とチーム最年長の島川慎一が抱擁を交わす。ベンチから出てきた選手たちとハイタッチを交わす。前回王者のオーストラリアを破り、見事に銅メダルを獲得した。

 初めて車いすラグビーを見た時の衝撃は、今でも忘れることができずにいる。“ラグ車”と呼ばれる専用の車いすが勢いよくぶつかり合う。思わず耳を塞ぎたくなるほどのガツーンという衝突音が体育館じゅうに響き渡る。時には火花が散ることもある。衝突時の衝撃は、瞬間最高30Gにまで達する。「殺人球技」と呼ばれるのも納得の激しさだ。

 そんな激しさに魅力を感じて車いすバスケットボールからラグビーに転向したのが、日本代表で大車輪の活躍を見せた池崎大輔だ。バスケでも車いす同士がぶつかり合うことはあるが、故意と見なされればファウルとなる。それがラグビーではタックルとして、“合法的に”相手をつぶしにいくことができる。

 「最初は抵抗もあったけど、相手をドーンと吹っ飛ばした時にスカッとした気持ちよさを感じるようになって。自分の性格にはむしろこっちのほうが合っていたのかなと」

 これだけ激しいコンタクトを伴うスポーツだけに、筋力トレーニングは欠かせない。だが、各自の障がいに応じてトレーニングも工夫する必要がある。

 「僕は手首が弱くて握力がないので、“押す”ことはできても、“引く”ことができない。なので、懸垂など背中のトレーニングができず、もっぱら大胸筋や三角筋などを鍛えています」

 障がいによってはトレーニングマシンに移乗することさえ難しい選手もいる。

 また、車いすで競技する以上、肉体だけを鍛え上げても意味がない。

 「パワーをいかに車いすに伝えるか。“つなぎ”の練習も必要になってくる。それには坂道を車いすでダッシュするシンプルな練習が割と効くんです」

 試合だけでも十分に楽しめるパラスポーツだが、彼らのトレーニングに目を向けると、さらにその奥深さを知ることができる。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

続きを表示

2021年8月30日のニュース