ドラマ「探偵・由利麟太郎」 横溝正史作品の強い磁場の行方

[ 2020年7月13日 10:30 ]

吉川晃司が主人公を演じるドラマ「探偵・由利麟太郎」(C)カンテレ
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 【牧 元一の孤人焦点】やはり横溝正史さんの作品の磁場が強いせいなのだろう。設定が現代に変わっているのに昭和の香りがする。14日に最終回を迎えるフジテレビ系「探偵・由利麟太郎」(火曜後9・00、カンテレ制作)は興味深いドラマだ。

 横溝さんは探偵の金田一耕助が登場する小説「犬神家の一族」「八つ墓村」などで知られる作家で、太平洋戦争前の昭和の初期、金田一より先に探偵の由利麟太郎を生み出した。

 ドラマは計5話で6月に放送開始。由利を演じているのは俳優で歌手の吉川晃司、助手の三津木俊助は俳優の志尊淳。7月7日放送の第4話で、由利シリーズの最高傑作「蝶々殺人事件」に突入した。

 何者かによって殺害されたソプラノ歌手・原さくらがコントラバスのケースに入れられて届けられる事件。原作の小説は戦後の昭和21年から22年にかけて雑誌で連載され、事件の時代設定は戦前の昭和12年になっている。つまり、今から80年以上も前の物語だ。

 ドラマの舞台は現代。演出・プロデュースしたカンテレの木村弥寿彦氏は「事件の鍵となるコントラバスの移動手段が、原作では鉄道便だった。しかし、現代では新幹線による宅配便もないので、車による宅配に変更した。現代にはもう存在しないものをどう表現するかに苦労した」と明かす。一方で「現代に置き換えることで、携帯電話やインターネット動画を使うなど、自由な表現ができるようになり、新しい『蝶々殺人事件』を作れたと思う」と語る。

 確かに、映し出される風景は現代、環境も現代だ。ところが、物語に没頭していると、いつの間にか、古い時代のドラマを見ているような錯覚に陥る。なぜだろう。事前に読んだ原作の残像が消えないためか…。設定は現代に変わったものの、横溝さんの世界観が失われていないためだろう。

 「蝶々殺人事件」は特に横溝さんの思い入れの強い小説だ。横溝さんは戦後間もなく、当時の日本で失われていた本格的探偵小説を書こうと決意。金田一を初登場させた小説「本陣殺人事件」と同時期に、コントラバスのケースに死体を隠すというアイデアを基にこの小説を書いた。作品に探偵小説の本来の魅力である犯人捜しの面白さを詰め込んでおり、それがドラマにもしっかりと反映されている。

 木村氏は最終回の見どころについて「殺された原さくらの衝撃の過去。すべての出来事がさくらの過去をひもとくことによって解決される。そして、事件を解決する由利麟太郎が最高にかっこいい」と語る。

 さて、最後まで横溝作品の磁場の強さを感じるか、それとも新たな感覚を得られるか。最終回が楽しみだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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