大河「麒麟がくる」 「魅力的な帰蝶」を作る川口春奈の「豊かな感性」

[ 2020年6月8日 13:40 ]

7日放送のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で織田信長の側室の子を抱く帰蝶(川口春奈)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】7日放送のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で川口春奈が見せた表情だけの演技が素晴らしかった。役者が喜怒哀楽のいずれか一つの表情を作るのは比較的容易だろうが、いろんな感情が渦巻く表情となると簡単ではないはずだ。しかし、川口はそれを見事にやり切った。

 織田信長(染谷将太)の正室・帰蝶(川口)が信長から側室の子供を託される場面。見知らぬ子のいる部屋に連れて行かれた帰蝶が「このややこは?」と尋ねると信長は「名は奇妙丸(のちの織田信忠)。わしの子じゃ」と衝撃の告白。帰蝶は目が点となり、絶句する。

 今の時代だったら、ただではすまない。まず離婚問題が生じるだろう。ところが、物語の舞台は戦国時代。信長から「すまぬ。黙っていたことは謝る。ただ、わしたちには子がおらぬ。織田家を継ぐ者がおらぬ」と言われれば、むやみに騒ぎ立てられない。

 帰蝶は無言だ。ただ、その表情には、さまざまな感情が渦巻いている。まずは驚き、そして、怒り、悲しみ、さらには、それでも信長を嫌いになれない思い。信長から「わしが死んだら、あの子を育ててくれ。そなたに預ける。わしはこの10年、そなたを頼りに思うてきた。今もそうじゃ」と言われると、極めて複雑な表情を浮かべる。何も言葉を用いずに表情だけで心の動きを表す、この川口の演技が素晴らしかった。

 演出の一色隆司氏はこの場面について「この時代の女性は大変だなと思う。夫が他で子供をつくっていても何も言えない。それによって『離婚します』とも絶対にならない。嫌いになる人もいるのだろうが、帰蝶は信長を嫌いにはならない。それも自分の運命と受け入れる」と説明。川口の演技に関して「戸惑いと怒り、その下から湧き出る悲しみをシームレスに表現することを意識してもらった。女性の目から見たら許せない部分もあって良いわけで、それもきちんと感じながら、でも、信長に対する思いがその場で冷めることもなく演じて欲しいと話した。とても複雑な思いを巧みに演じてくださったと思うし、帰蝶を確実に自分のものにしていらっしゃると思う」と語る。

 川口は沢尻エリカの代役だったが、今ではそれをすっかり忘れるほど物語に溶け込んでいる。一色氏は川口のこれまでを振り返り「最初は、所作など、とてもナーバスになっていたが、周りの役者さんから声を掛けて頂いたり、いろんな人とコミュニケーションを取りながら帰蝶をつかんでくださった。お姫様であるがゆえにほんろうされる人生を受け入れつつも、自分の在り方に信念をもって生きていこうとする姿は、川口さんの人見知りだけれど負けず嫌いというところと重なる部分も多いように感じる」と指摘する。

 「女優・川口春奈」について一色氏は「リハーサルで出した芝居上の宿題などは、本番の時までにこちらの想像をはるかに超えるレベルでこなして魅力的な帰蝶を作ってくださっている。ものすごい努力家であると同時に人の心をいろんなレベルで表現できる豊かな感性をお持ちなんだと思う」とたたえた。

 「麒麟がくる」は来週からしばらく放送休止となる。再開後、どんな魅力的な帰蝶が帰ってくるのか。今から待ち切れない思いでいっぱいだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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