「なつぞら」脚本・大森寿美男氏が込めた“開拓”への思い 最終週副題「十勝晴れ」は最終ロケ天候で決定

[ 2019年9月28日 08:20 ]

連続テレビ小説「なつぞら」最終回。十勝の大草原の丘に立つ(左から)なつ(広瀬すず)優(増田光桜)坂場(中川大志)(C)NHK
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 女優の広瀬すず(21)がヒロインを務めたNHK連続テレビ小説「なつぞら」(月~土曜前8・00)は28日、最終回(第156話)を迎え、完結した。脚本家の大森寿美男氏(52)、制作統括の磯智明チーフプロデューサー(CP)に最終週(第26週)(今月23~28日)に込めた思いを聞いた。

 節目の朝ドラ通算100作目。大河ドラマ「風林火山」や「64」「精霊の守り人」「フランケンシュタインの恋」、映画「39 刑法第三十九条」「風が強く吹いている」などで知られる大森氏が2003年後期「てるてる家族」以来となる朝ドラ2作目を手掛けたオリジナル作品。戦争で両親を亡くし、北海道・十勝の酪農家に引き取られた少女・奥原なつ(広瀬)が、高校卒業後に上京してアニメーターとして瑞々しい感性を発揮していく姿を描いた。

 最終週は1975年(昭50)4月、優(増田光桜)が小学校に入学。なつたちマコプロダクションの面々は動画用紙が誤って雨に濡れるトラブルなどに見舞われながら、大好評を博したアニメ「大草原の少女ソラ」を完成。無事に最終回を迎えた。

 そして、夏休み。なつ、坂場(中川大志)、優、なつと28年ぶりに再会した千遥(清原果耶)、千夏(粟野咲莉)が十勝に帰省。千遥にとっては、兄姉を探して柴田家に現れて以来16年ぶりの再訪となった。

 翌日の夜、柴田牧場は嵐に襲われ、停電に。電動で搾乳するバケットミルカーが使えず、搾った牛乳を冷やすこともできない。落雷の音で目が冷めた90歳の泰樹(草刈正雄)は全身にエネルギーが満ちたように立ち上がり「手で絞るんじゃ!牛を助けるんじゃ!」。乳を絞らなければ、牛が乳房炎になるため、なつたちも手伝い、必死に搾乳。40頭の牛はすべて助かった。

 嵐が去った翌日、なつと泰樹は天陽(吉沢亮)の畑へ。泥沼と化した畑で、靖枝(大原櫻子)がジャガイモを掘り起こすのを手伝った。泰樹は「わしが死んでも、悲しむ必要はない」と、なつに語り掛けた。

 照男(清原翔)と砂良(北乃きい)も散らかった小屋で落胆していたが、再び一からやり直すことを決意。麻子(貫地谷しほり)から次回作について電話を受ける坂場(中川大志)も決意を新たにした。忙しなく過ぎる日常の中、皆が再び自分の道を開拓いくのだった――。

 大森氏は「『開拓』をテーマに書いてきましたが、僕なりにたどり着いた『開拓』というものの結論は、何かこう世界を大きく変えることでもなく、自分の力で自分の道を生きていくということ。自分の生活を支えていく手段みたいなもの。まず、その基礎がないと、どんなことも切り拓いていけないんじゃないでしょうか。だから、なつはアニメーション作りと家庭の幸せを考えた時、次のステップに進む前に、もう一度、泰樹の生き様に触れて、やっぱり自分にはこの道しかないんだと再認識して自分の人生を踏み出していく、これからも、ささやかですが、自分の人生の開拓が続いていくというラストにしたいと思いました。なつの開拓は何もアニメーションの世界を変えることでもなく、これからも自分の生活を支えていく『心』でしかない。それはもう、どんな人にもある精神だということを、最終週で表現したかったんです」と解説した。

 序盤の第4話(4月4日)で視聴者の胸を打ってやまなかった、なつ(粟野咲莉)と泰樹による“アイスクリームの名場面”。泰樹は「それは、おまえが搾った牛乳から生まれたものだ。よく味わえ。ちゃんと働けば、ちゃんといつか報われる日が来る。報われなければ、働き方が悪いか、働かせる者が悪いんだ。そんなとこはとっとと逃げ出しゃいいんだ。だが、一番悪いのは、人が何とかしてくれると思って生きることじゃ。人は人をアテにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるのだ。おまえはこの数日、本当によく働いた。そのアイスクリームは、おまえの力で得たものだ。おまえなら、大丈夫だ。だから、もう無理に笑うことはない。謝ることもない。おまえは堂々としてろ。堂々と、ここで生きろ」と現代にも通じる労働哲学を静かに語り掛けた。黙って耳を傾けていたなつの目から大粒の涙があふれ出した。

 最終週も、なつと泰樹の“師弟関係”に帰結。大森氏は「泰樹にとっての開拓は何も牧場を大きくすることでもなく、牛と一緒に生きていくということ。だからこそ、柴田牧場が停電になった時、真っ先に牛を助けようとしたのは、そこなんです。なつがもう一度、アニメーションと家族と向き合う上で礎になるような最終週にしようと思いました。『わしが死んでも、悲しむ必要はない』という泰樹の言葉はある意味、2人の別れにもなりましたが、それが開拓精神の継承になるんじゃないかと。それを描いて終わるのが『なつぞら』らしさだと思いました」と明かした。

 最終週のサブタイトルは「なつよ、あっぱれ十勝晴れ」。この地方は通称“十勝晴れ”と呼ばれる清々しい晴天に広がる、さわやかな青空が印象的。

 磯CPは「開拓者の人たちにとって、天気は大事だったと思いますし、2017年の秋、とかち帯広空港に初めて降り立った時、目に入ってきたのは圧倒的な青空でした。果てしなく続く十勝平野の大きな空です。『なつぞら』というタイトルも、そういう意味で付けました。締めの週なので“十勝晴れ”という言葉を使いたいと思っていたんですが、実はこのドラマ、十勝にロケに行くと天気があまり良くなかったんです」

 昨年6月8日に十勝ロケでクランクイン。今年1月下旬、4月下旬、7月上旬とドラマの主舞台となる十勝ロケを四季折々、4回にわたって重ねてきた。昨年6月は20日間、今年1月は1週間、4月は5日間、7月は7日間。準備を含めると通算約2カ月に及んだ。

 しかし、7月の天候不順による撮りこぼしがあり、全体クランクアップ(8月20日)の直前、スタジオ収録の合間を縫い、8月中旬に1日だけの十勝ロケを敢行。なつ、坂場、優の3人が大草原の丘を歩くラストシーンを撮影した。

 「ロケの予定日は台風が北海道を直撃するという予報でしたが、予想以上に台風が早く進み、当日は本当に澄み切った青空でした。ここで雨なら“十勝晴れ”のサブタイトルはやめ、別のものにしようと思っていたので。スケジュールがこの日程しかなかったので、良かったです。スカッと抜ける青空のラストシーンをご覧いただいたら、『なつぞら』のタイトルも、最終週『なつよ、あっぱれ十勝晴れ』のサブタイトルも皆さんに納得していただけるんじゃないかと思います」。最後の最後、運にも恵まれた朝ドラ100作目だった。

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