怪奇漫画の2大巨匠が語った「ホラーとギャグの共通点」

[ 2019年8月31日 22:45 ]

6月、ホラー漫画家・日野日出志氏(中)の初絵本発売イベントに駆けつけた伊藤潤二氏(右)と、文筆家の寺井広樹氏
Photo By スポニチ

 夏といえばホラーや怪談だが、漫画好きの記者にとって今夏の大きなトピックの1つは、日野日出志氏(73)伊藤潤二氏(55)という、怪奇漫画の2大巨匠が東京・秋葉原で開いたトークショーだった。

 「蔵六の奇病」「地獄の子守唄」など1970年代から数々の衝撃作を発表してきた日野氏が、6月に初の絵本「ようかい でるでるばあ!!」で約15年ぶりの新刊を発売した際の記念イベント。伊藤氏もイベント後に、ハリウッドによる「富江」のドラマ化が発表され、「漫画界のアカデミー賞」と呼ばれる米アイズナー賞のコミカライズ部門賞を「フランケンシュタイン」が受賞するなど、今思えば今夏のホラー漫画界を象徴するようなイベントだった。

 興味深かったのは、巨匠2人が「ホラーとギャグは紙一重」ということ。言い古された表現でもあるが、2人の作品を通して考えると、改めて強い説得力を感じた。

 例えば伊藤氏の「うずまき」は、主人公の町が“渦巻きの呪い”により、あらゆる物が渦巻き状に変化していく物語。女性の髪はぐるぐるパーマに、異常気象で巨大竜巻が発生、人の体がねじれていく…というものだが、冷静に考えればギャグにも聞こえる。それが伊藤氏の耽美的な人物描写や、陰うつな背景によって恐怖に変わっている。

 一方の日野氏も、例えば名作と名高い「赤い花」で、栽培農家の男が美しい花を咲かせるため、美女を殺して食べた上で、排せつ物を肥料に美しい花を咲かせる物語を描いている。狂気じみた発想を貫く姿に底知れぬ恐怖を感じるが、これもあらすじを書くとギャグに思えてくる。

 日野氏は常々、高校時代はギャグ漫画家を目指しながら赤塚不二夫の登場で「かなわない」と断念したと語っている。この日のトークショーでは「結局、自分はずっとギャグ漫画を描いてきたのかと思うこともある」との思いを吐露した。「ホラーの創作は日常を崩す発想から始まりますが、それはギャグと同じなんです」とホラーとギャグの共通点を分析した。

 伊藤氏に至っては「これはギャグかもしれない」と、やや確信犯的であることも明かした。少年時代から2人の作品には幾つものトラウマを作られたが、その背景にギャグの発想があると思うと不思議な気分になった。

 ちなみに日野氏は「赤い花」について、夫人に対しての強い愛情もモチーフとなっていることも明かした。「若かったし(夫人を)俺だけのものにしたいという、独占欲のような思いが、ああいう形で漫画になった。若かったんですね」と照れ笑いして明かした。

 恐怖という感情は、笑いや喜び、愛情など、プラスとされる感情から遠くない場所にあるのだろうか。(記者コラム・岩田 浩史)

続きを表示

2019年8月31日のニュース