一時休館パルコ劇場“最後”の新作「母と惑星…」に込めた思い

[ 2016年7月5日 12:00 ]

舞台「母と惑星について、および自転する女たちの記録」に出演する(右上から反時計回りに)志田未来、鈴木杏、田畑智子、斉藤由貴

 1973年に開場して以来42年間、日本演劇界の中心の1つとして上演を重ねてきたパルコ劇場(東京都渋谷区)はビル建て替えのため8月7日をもって一時休館に入る。“最後”の新作舞台は「母と惑星について、および自転する女たちの記録」(7月7~31日)。パルコの佐藤玄プロデューサーに企画意図を尋ねた。

 今作は、劇団「モダンスイマーズ」の作・演出や舞台版「世界の中心で、愛をさけぶ」「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」などで知られる脚本家・蓬莱竜太氏(40)と、井上ひさし氏の戯曲を上演する劇団「こまつ座」の数々の作品やストレートプレイからミュージカルまで幅広く活躍する演出家・栗山民也氏(63)が立ち上げた。

 突然の母の死から1カ月。徹底的に放任され、父親を知らずに育った辻3姉妹は、母の遺骨を持ち、あてのない異国への旅に出る。「私には重石が3つ必要なの」。毎日のように聞かされた母の口癖が頭を巡る。次第によみがえる、3姉妹それぞれが持つ母の記憶。あの奔放な母は自分たちに何を残したのか――。そして自分たちはこれから、どこに向かえばいいのか――。現在の異国と記憶の長崎を舞台に母娘4人の愛憎を描く。

 三女・シオ役に志田未来(23)次女・優役に鈴木杏(29)長女・美咲役に田畑智子(35)母・峰子役に斉藤由貴(49)。4人は舞台初共演となる。

 一時休館に向け、パルコ劇場は今年1月に11年目を迎えた立川志の輔(62)による正月恒例「志の輔らくご in PARCO 2016」 、2月にSMAP・稲垣吾郎(42)が主演を務めるミュージカルコメディ―の第3弾「恋と音楽 FINAL」、3月に同劇場が生んだヒット作「ショーガール」、4月に中谷美紀(40)主演作の再演「猟銃」と美輪明宏(81)の代表作の1つ「毛皮のマリー」と、輝かしいレパートリーをラインアップした。

 5~7月は未来を見据えた新作をかけることに。5月は劇団「はえぎわ」を主宰するノゾエ征爾氏(41)が脚本・演出を務めた「ボクの穴、彼の穴。」、6月は「志の輔らくご」を初舞台化した「メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~」。8月、最後の1週間は延べ460組のカップルが出演した朗読劇「ラヴ・レターズ」に決定。7月は何を上演するか。

 佐藤プロデューサーはまず演出の栗山氏、脚本の蓬莱氏を指名。「今、どのような作品を提示するべきか。日本を代表する演出家の栗山さんに一緒に考えていただきたかった。そして、新作を作るとなった時、次の世代につなぐ意味で、パルコ劇場の作品を見て育った作家でやりたい。人間の機微を繊細に描く蓬莱君にお願いしました」。2人は、蓬莱氏が2009年に「演劇界の芥川賞」と呼ばれる岸田國士戯曲賞に輝いた「まほろば」(08年・新国立劇場)でタッグを組んでいるが「今度は、劇場の最後ということを視点に入れた上で企画が始まりました」。

 「一時休館となりますが、約3年後には新しい劇場が開館します。『終わるだけじゃなく、次もある』『世代を超えて語り継ぐ』。そういう思いを込めた作品にしたいと考えました。栗山さんが60代、私が50代、蓬莱君が40代。男性3人が集まりましたが、女性ばかりの話がおもしろいんじゃないかと。母娘の話、命をつなぐ話はテーマにピッタリだと思いました。母・峰子が死に、残された3姉妹はどこに向かうか。劇場は一時休館し、新しい劇場に。そこがダブルミーニングになればと」。次世代へ生まれ変わる劇場と、そこで上演される物語の持つ意味合いが重なり合う。

 実は上演まで1年を切ってからの企画スタートだった。一般的な舞台製作スケジュールとしては短め。それでも「現パルコ劇場の最後新作だから、栗山さんもお忙しい中で時間を押さえてくれました。蓬莱君も1年を切ってから脚本を書き始めるというのは、普通なら“秒読み段階”なわけで」。女優陣もゆかりの深いパルコ劇場の“最後”ゆえに集結した。
  
 奔放な母に振り回されて生きてきた3姉妹だが、自分らしい生き方を見つけようとする。佐藤プロデューサーは「日頃のしがらみや乗り越えられない壁にもがいている人たちに、明日への一歩を踏み出していただきたい。そういう希望を持ち帰っていただけたらいいなと思っています」と願っている。

 【パルコ劇場】1973年、西武劇場として開場。ファッションビル「渋谷パルコ パート1」内にある。客席数は458。数多くの人気作や話題作を上演。寺山修司氏、唐十郎氏(76)、蜷川幸雄氏、三谷幸喜氏(54)らが活躍。木の実ナナ(69)と細川俊之氏主演のミュージカル「SHOW GIRL」シリーズは大ヒットした。新劇場は2019年、跡地に建つ地上20階、地下3階の高層ビルに開館する。

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