斎藤工 抱かれたい俳優No・1の独特な世界観「じゅくじゅくした本質を見たい」

[ 2016年5月31日 08:50 ]

独特の世界観で見る人を引きこむ斎藤工

 俳優の斎藤工(34)が面白い。「抱かれたい俳優No・1」「セクシー」という代名詞で語られがちだが、三枚目路線を喜んで引き受け、当意即妙の受け答えで場を盛り上げるサービス精神と、自身の顔を「閉店間際の生もの」と表現するような独特の感性の持ち主。見るたびに新たな魅力に気付かされる、奥の深い斎藤工ワールドをのぞいてみる。

 映画に連ドラに引っ張りだこの人気ぶりを「もう終わりますよ」と冷静な顔で言い切る。女性をうっとりさせる甘いマスクは「安めの顔。閉店間際の生ものみたい。原田芳雄さんが好きでこの世界に入ったので、味のある、理屈じゃない何かを背負った顔に憧れます。重厚な顔に生まれたかった」と自虐的。「役者には向いていない。代わりがいくらでもいるタイプなので。新井浩文さんみたいな役者が好き」とも語る。ネガティブ発言を連発するが、客観的に自身を見つめる視点と豊かな表現力がユニークだ。

 先日行われた映画「高台家の人々」(6月4日公開)のイベントでは、作品にちなみ自身の妄想を聞かれ「人の全裸を想像する。ここにいる全員全裸です」と話し、会場の笑いを独占した。「照れ隠しでいろいろ言っちゃうんです」と明かすが、旺盛なサービス精神と、さらりと下ネタを交えた軽妙トークは男性ウケも良く、テレビではかぶり物を披露するなど三枚目路線もいとわない。「さかのぼると、まともじゃない役の方が多い。自分の本流はそこにある」

 14年のフジテレビ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」でブレークするまでデビューから10年以上。端役から、男性同士の恋愛モノにも出演した。「昼顔の少し前、同業の人に“芸人さんですか”って聞かれ、知られてないということが凄く戒めになった。そういう自分は忘れたくない」。下積み時代に朝刊の配達をしていた新聞販売店には今でも籍を置き「帰りが遅くなった時にカブの音がすると“本当にご苦労さま”と思います」と原点を大事にしている。

 「高台家の人々」では、妄想好きのヒロインが恋するイケメンエリートで、人の心を読めるテレパシー能力を持つ役。「僕は、人間は奇麗な生き物だと思っていないので、自分に置き換えたら絶対に地獄」と力説。一方、人を観察し妄想するのは好き。「人間は逆説的だから、凄く丁寧な言葉遣いの人が心の中で中指を立ててるとか、超怖い監督や演出家が本当は寂しくて友達になってほしいと思ってるとか想像します。じゅくじゅくした本質を見たいんです」

 その観察眼は女性にも発揮される。「造形がどうとかよりも、メークしてもしまえない本質を見ますね。その人の生きざまや本質を物語る顔に責任を持っている人が美しいなと思います」

 映像制作の会社に勤務していた父親の影響で子供の頃から映画が好きで、レンタルビデオ店で「あ」行から作品を制覇したという逸話の持ち主。「僕はいまだに製作志望。できたらもう転職したい。軸をさりげなく移していこうと思う」と笑顔で本心を明かした。

 12年に短編作品で監督に初挑戦。若い監督の作品に製作で携わり、映画館のない地域に映画を届ける移動映画館プロジェクトも実施しており「役者だと準備期間、入り時間、本番とか区切りがあるけど、映らない人たちは注ぐエネルギーの時間割がなくて、無限にプライベートをそぎ落とす覚悟を持ってやっている。映っていない時の方が自分の能力が出て、凄くやりがいを感じます」と生き生きと語る。

 祖母が「物を作る人になってほしい」と付けた名前そのままの職人気質。「工は直訳するとクリエーティブという字。仕事をしているとシステム化してくるけど、芸術の枠組みの中にいることを忘れたくない。バラエティーでも同じです」

 芸能界では「ニッチェ」の江上敬子(31)らお笑い芸人の友人が多い。息抜き方法を尋ねると「見なきゃいけない映画が月20~30本あって息が抜けない。でも抜かなくていいかなと思う。何も背負ってない状況で山を登るのと、多少ハンデを負って登るのは筋力のつき方が違う。“あ~しんど”と思ってるくらいがちょうどいい」。

 今年公開される出演映画は10本以上。自身の希望とは裏腹に、俳優としての需要は引きも切らない。「自分のことなんて知らない海外の人たちも楽しんでもらえる作品になっているかどうか、厳しくその目線を持っていたい。それに、現実の方がよっぽど映画的でドラマチック。その“時”を感じる手綱は離さずに進んでいきたい」。作品に注ぐ視線と熱量は“匠(たくみ)”といえるプライドと覚悟が感じられた。

 ◆斎藤 工(さいとう・たくみ)1981年(昭56)8月22日、東京都出身の34歳。高校時代からモデルとして活動し、01年に映画「時の香り~リメンバー・ミー~」で俳優デビュー。05年の舞台「テニスの王子様」で注目される。11年には「燦々」で歌手デビュー。主な出演作はNHK大河ドラマ「八重の桜」、フジテレビ「医師たちの恋愛事情」、映画「愛と誠」「虎影」など。6月4日公開の「団地」にも出演。1メートル84。血液型A。

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