秦基博 デビュー10周年の年男は気負いなし、今年は「あそぶ」
秦基博(35)は、2016年最も注目すべきシンガー・ソングライターだ。一昨年に映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌となった「ひまわりの約束」がロングヒットし、昨年のカラオケ年間ランキング1位を獲得。日常の景色や心情を独特の視点で切り取った曲と唯一無二の歌声で、時代が求める存在となっている。大阪市内でこのほど、スポニチの取材に応じ、年男とデビュー10周年の節目に当たる今年への思いなどを語った。
力みがなく、柔和な佇まいはまさに自然体。何せ落ち着ている。「歌も自分も、格好つけて飾ってもバレる。なるべく普段のまんまで居られたら、とは思いますね」と穏やかな口調で話す秦は、今年36歳の年男だ。彼の音楽人生で、申年は意外と鍵になっている。ギターを弾き始めたのが12歳で、24歳にはインディーズでCDを発売した。
24歳当時は実家暮らしで、美術品運搬のアルバイトをしながら横浜のライブハウスを拠点に音楽を続けていた。同級生が社会人2年目になる中、焦燥感はなかったのか問うと「特になくて、作曲やライブをして表現と向き合ってました」と飄々。「大学時代、就活時期に、自分は全くする気がなかった事で“ああ、俺は違うんだ。ミュージシャンの道に進みたいんだ”と自覚したから。何の根拠も当てもないけど、何となくプロになるんだろうな、とは思ってました」と、振り返った。
当時から名ホールでの公演や売れたいといった野望はなく、「ずっと音楽をやっていたい」の思いだけだった。「ひまわりの約束」以降、シングルが3作連続で映画主題歌になるなど、現在の目覚ましい活躍にもどこか他人事のように冷静で、望むのは「リスナーの中に1曲でも残れば。あとは10年経っても聴いてもらえるような曲を」。地に足が付いている。
熱狂的ファンが多く、公演チケットも常に即完売の大阪は、10年で最も多く訪れた地の1つだ。“初戦”ではいきなり洗礼を浴びた。デビュー直前の06年9月、大阪城音楽堂でイベントに出演。「生まれて初めて大阪に来ました」と正直に言うと、客席から大ブーイングが起きた。「凄いビックリしたんですよ、僕。いや、生まれて二十何年大阪に来ない人だっているだろ!って」と苦笑い。“大阪初めてって、どないやねん!”という大阪人の地元愛と絶対的な自信に、「大阪らしいなあ」とも感じた。
さらに大阪は、天下のアーティストにも容赦なく“ムチャぶり”を連発する。ラジオやテレビの企画で、サンタのコスプレに人力車での登場、料理の実演なんて序の口。漫才にも挑戦し、デビュー数年目にして鶴橋での“1人ロケ”も課せられた。「スキルがないから不安な上に、コリアンタウンに行ったら、まさかの定休日でほぼ店が閉まってて…拷問ですよ。事前に休みぐらい調べといてよ(笑い)。でも他の地域ではできない事が経験できて、楽しいっすけどね」。
今年の抱負は「あそぶ」。「より適当に、自由に遊ぶ…そんな余裕で色んなことを楽みたい」と、10周年の節目にも気負いはない。「遊ぶ」を平仮名にしたのはより柔軟に、という思いからだろう。先月発売した新アルバム「青の光景」の収録曲「あそぶおとな」でも、♪もっと単純で ひらめきで それが意外といいんだ…と歌う。「何したって自分の色は出る。それなら、よく分からない“自分らしい”って枠にとらわれず、やりたい事を素直にやってみるのが気持ちいいはず」。
これまで“オリジナリティー”や“自分なりのポップ”について考え抜き、突き詰めてきたからこそ得たシンプルな答えがある。それは、自ら作り歌えばそこに個性が宿る、ということだ。音楽的な経験値も上がり自信もついた10年目の彼の言葉には、まさに大人の余裕が漂う。
普段はもの静かな秦も音楽では自由にはじけ、多彩な内面を雄弁にさらけ出す。今年は新曲やライブで更に多面的な素顔、新たな引き出しを提示してくれそうだ。3月からはアルバムツアーが始まる。「ツアー中に次へのアイデアやヒントが生まれることが多いので、楽しみ。あとは節目なので、後々思い出せる記念の大きなイベントもできたら」と声を弾ませていた。
<5thアルバム「青の光景」発売中>
約3年ぶりの最新アルバムは、「ひまわりの約束」をはじめCMや映画に起用されたタイアップ曲が半数以上を占める。秦の音楽が時代に求められていることがよく分かる。
各曲で様々な“青の光景”が展開され、グラデーションのように多彩な詞や音となって広がる。「ぐっと深海を潜ったり、最後は空に帰っていったり…音楽の中を旅してもらえる」と本人も自信をみせる1枚は、作詞作曲から編曲、プロデュースまで全てを自ら手掛けた。「終盤は徹夜もよくした。スタジオで夜を明かして昼にまた集合、とか…。結構、頑張ったんです」と照れ笑い。「それだけやったから、パッケージになった今、心からみんなに聴いて欲しいと思えるものになった」と胸を張った。
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