驚くべき歌詞だった「よこはま・たそがれ」 女心ソングで一時代

[ 2014年9月16日 08:08 ]

 6日に77歳で死去した山口洋子さんを音楽評論家の小西良太郎氏が追悼した。

 「作詞家は阿久悠しかいないのですか、歌手は沢田研二しかいないのですか?」

 山口洋子からそんなはがきが届いたのは、1976年の初めのころ。スポニチ紙面が阿久をコラム執筆の常連にし、石原信一を起用、沢田の連載を始めたことへ、やや感情的な彼女の抗議だった。

 そのくらい彼女は、五木ひろしの全てに熱中していた。彼女が伝説の10人抜きテレビ番組「全日本歌謡選手権」で五木を見いだしたのはそれより5年前の1970年。以後彼女は五木のゼネラルプロデューサーになる。再デビュー曲「よこはま・たそがれ」を作詞、平尾昌晃に作曲を依頼、作家五木寛之と話して芸名を決め、親交のあったキックボクシングの野口修社長のプロダクションに所属させる。それやこれやが大当たり、五木は彼女と平尾の「夜空」で73年のレコード大賞を受賞している。競り合った阿久作品の沢田は、目の上のたんこぶだったのだろう。

 ♪よこはま、たそがれ、ホテルの小部屋、くちづけ、残り香、煙草の煙…

 「よこはま・たそがれ」は、驚くべき歌詞だった。流行歌のエッセンスみたいな単語がぶつ切り。言葉の一つ一つが相乗効果をあげながら、物語のイメージを浮かび上がらせる仕掛け。言葉のジグソーパズルみたいな詞の向こう側に見えるのは、濃いめの情事、不倫の匂いで、平尾のメロディーがそれを、よどみなく甘美に具体的にし、下積み6年の五木が、地味派手のおとなの歌にした。

 山口は当時、銀座の有名クラブ「姫」のママ。映画女優出身の人脈も生きて、芸能界の有力者が常連客にいた。その中の一人の、

 「女給風情が詩人気取りか!」

 の一言も、彼女の負けん気に火をつけたろう。五木のヒットを連作、中条きよしの「うそ」の

 ♪折れた煙草の吸いがらで、あなたの嘘(うそ)がわかるのよ…

 に代表される新しい女心ソングで一時代をつくる。

 大阪万博、よど号ハイジャック事件、作家三島由紀夫自決、沖縄復帰、石油ショック、ロッキード事件など繁栄と騒然が裏表の70年代に、歓楽街の“夜の哀歓”を描いて、その世界は独自だった。

 やがて五木が独立、山口は長い闘病生活に入る。その美貌が人前に出ることは絶えたが、身近で見守ったのは“同志”野口修氏だったろう。(スポニチOB、音楽評論家)

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