[ 2010年12月11日 06:00 ]

 一方、これに先立つ11月27日、横浜・みなとみらいホールでこのコンビによるベートーヴェンの交響曲第5番「運命」と大フーガ、そしてシューマンの序曲、スケルツォとフィナーレを聴きました。

シューマンに続く「大フーガ」は指揮者なしでの弦楽合奏。これには、こんな前衛的な曲をベートーヴェンは作っていたのかと、意表を突かれた思いがしました。これを聴いて当時の人はどう思ったのだろうか。現在のような指揮者は存在していない時代でしょうから、これを演奏した人たちはこの曲をどう評価していたのかなどと、興味を掻き立てられる演奏でした。
 そして第5交響曲は冒頭から、軽快なテンポ設定で全曲を約30分で演奏しきってしまうほどの速さ。まさしく快演でした。
 「ヤルヴィによるベートーヴェンは、楽譜に記されたメトロノーム速度の指定通り演奏されることが多い。このため聴き慣れた演奏に比べると極端に速くなるケースがしばしば見られる。こうすることで20世紀の巨匠たちの解釈のように重厚な響きやロマンティックな雰囲気は雲散霧消し、古典派本来の構成美が鮮やかに浮かび上がってくる。楽器の性能や演奏技術の向上で、これまで不可能とされていた第3楽章のトリオの部分のテンポ設定も指定通り演奏されることが増え、ヤルヴィも当然そうしているわけだ。その結果、ベートーヴェンの交響曲はロマン派のように心を表現した音楽ではなくフォルムの美しさを重視した絶対音楽であることが今更ながらに納得させられる」とコンシェルジェは説明します。
私は音楽自体がベートーヴェンの素顔というよりも、筋肉質でスマートな裸体に思えました。深刻な事態に立ち向かう勇気というよりも、青年期のベートーヴェンがいくつもの出来事に出会いながらも疾走していく様が浮かんできて元気をくれる。何度でも聴きたくなる「運命」でした。
 アンコールは、ブラームスの「ハンガリー舞曲」第5番、第6番。ベートーヴェンから一転、客席から歓声を誘うほどに躍動する演奏。ヤルヴィは聴衆をいかに楽しませるのかをしっかり念頭に置いている指揮者で、しかもなかなかの巧者であることが分かりました。

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2010年12月11日のニュース