[ 2010年12月11日 06:00 ]

ヤルヴィとドイツ・カンマー・フィル(C)Julia_Baier

 ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマー・フィルの魅力はスピード感にあふれたサウンドと、フレージングの切れ味の鋭さ、そして全体に横溢する躍動感です。これは聴覚面のみならず、視覚面からもそうした印象を強く与えるものでした。弦楽器奏者は皆が上半身だけを使って演奏するのではなく椅子から少し腰を浮かせて足を踏ん張り、腰を回転させるようにして全身で音楽を奏でているかのよう。そこから音楽に大きな弧を描いていくような広がりが生まれ、特に第4楽章では宇宙にまで届くのではないかと感じられたほど。あたかも磁力が生まれる瞬間を見てしまったかのような不思議な感覚に陥りました。

 後半の交響曲第3番「ライン」。私はいつもこの曲の冒頭を聴くと、気持ちが高ぶるような気がします。根拠のない高揚感と言ってしまうとシューマンに失礼なのですが、この日、ヤルヴィがその謎を解き明かしてくれました。冒頭部分、オーケストレーションのバランスの悪さをあえて誇張。この部分の全体の構造が各パートを少しずつ噛ませてうずたかく積み上げていくような作りになっているのだと示してくれたからです。まるで砂上の楼閣を見ているかのような演奏。そうなると、鼓舞するように鳴るホルンの美しさはむしろはかなげに感じられて胸を締め付けていたのです。

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2010年12月11日のニュース