[ 2010年5月29日 06:00 ]

終演後、ブロムシュテットに対する盛大な拍手がいつまでも続いた

 マーラーの第9交響曲、とりわけ第4楽章のアダージョは私の一生の中で記憶に残るであろう演奏の1つになったと思います。弦楽器が奏でる旋律が少しずつ広がっていくのに合わせて、ブロムシュテットの思いが溢れ出してくるかのようで、言葉には言い尽くせないような心からの感動を味わうことができました。後日、放送された映像でも再確認できましたが、最初の10秒で涙が込み上げてくるような深さのある音楽だったのです。もちろん音色も美しいのでしょうが、そういう次元を超えて音楽が魂を揺さぶった瞬間なのではないかと思います。「ブロムシュテットの音楽作りはマーラー独特の音響空間の構築や、そのベースとなる世紀末のウィーンの爛熟した文化の香りとは対極の世界にあるものだった」(コンシェルジェ)そうですが、それはなんら問題ではありませんでした。感謝に満ちた心だけが抽出されたような第9番はブロムシュテットがこれまでの人生を歩んできた末に辿り着いた音楽の結晶のように感じられたのです。あれこれと私の稚拙な表現でお伝えすることが畏れ多くはばかられます。チケットは完売。この記録がCDやDVDになって、この演奏が後世に残り、1人でも多くの人に聴いていただくことを願うばかりです。このように心が熱くなったのは私だけではないのです。会場の照明が完全に明るくなっても拍手は鳴り止まず、オケが退場して後も拍手が鳴り止まず、聴衆がステージ下に詰めかけるというというのは、N響定期公演において初めて見る光景でした。

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2010年5月29日のニュース