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[ 2010年3月15日 06:00 ]

<第3幕> 

短い前奏。狩に出かけたジークフリートの勇壮な様子を表現するかのように「角笛の動機」がホルンで力強く演奏されると、それに応えて「苦痛の動機」と「ギービヒ家 角笛の動機」が聞こえてくる。次第に「ラインの乙女の動機」などが現れ、狩で動物を追い走り回るうちにジークフリートがライン川のほとりにまでやってきたことが音楽によって描かれる。
◇第1場◇
川の傍にやってきたジークフリートの前に3人のラインの乙女たちが現れて、彼をからかう。「ラインの黄金の動機」などが聴こえてくる。指環を欲しがって戯れる乙女たちに、1度は渡す気になるジークフリート。しかし、乙女たちは面持ちを改め、指環に呪いがかかっていること、所有する者には必ず死が訪れると警告する。ジークフリートは、勇者は脅しにはのらないと再び指環の返還を拒否。乙女たちは「あとはブリュンヒルデに頼むしかない」とあきらめて姿を消す。
◇第2場◇
森の中からギービヒ家の男たちの呼び声が響き、ジークフリートが「ホイヘー!」とオクターブ上のド(ハイC)で応じる。「ギービヒ家、角笛の動機」と「ジークフリート角笛の動機」が交錯し音楽が高揚したところで、グンター、ハーゲンらの一行がジークフリートと合流する。グンターはジークフリートが鳥の言葉を理解出来ることに興味を示す。
ジークフリートはミーメに養育され、ノートゥングを自ら鍛え直したことなどを語り始める。音楽は話の内容に沿って、「小鳥の動機」「ニーベルングの動機」「剣の動機」「森のささやきの動機」「大蛇の動機」「指環の動機」などを次々と回想するように奏でていく。途中、ハーゲンは記憶を呼び醒す薬を入れた酒を、さり気なくジークフリートに飲ませる。鳥の声に導かれて岩山へ向かったと話すうちに、ブリュンヒルデとの出会いを思い出し一同に明かしてしまう。グンターは大きなショックを受ける。ハーゲンは間髪を入れず、飛び去る2羽の大ガラスにジークフリートの注意を向けさせ、ジークフリートが後ろを振り向いたすきにその背中を槍で突き刺す。金管楽器による「苦痛の動機」と「ジークフリートの動機」が重なり合う。「死の動機」のリズムに合わせて「ハーゲン、何をするんだ!」と一同が驚き問い詰めると彼は「偽りの誓いを罰したのだ」と言い放つ。
ホルンと木管による「目覚めの動機」とともに楽劇「ジークフリート」第3幕の音楽が再現され、彼の記憶と思いが鮮明に蘇ったことが表される。しかし、時すでに遅かった。「ブリュンヒルデがあいさつをしている…」と瀕死の息の中で言葉を絞り出すジークフリート。「ヴェルズング 苦難の動機」にティンパニによる「死の動機」が折り重なり、彼の絶命が示される。
ティンパニに金管楽器も加わって「死の動機」がフォルティシモで強奏され「ジークフリートの葬送行進曲」が始まる。「死の動機」に「ヴェルズング族の動機」が続き、「ジークムントの嘆きの動機」「ジークリンデの動機」を経て「剣の動機」が本来の調であるハ長調で輝かしくトランペットで吹かれ、それを受けてホルンが「ジークフリートの動機」をさらに力強く演奏。「ジークフリート英雄の動機」に至るまで、「ワルキューレ」以降の物語が走馬灯のように回想され、主要なライトモティーフが次々に現われて音楽が重層的に構築されていく。最後に「呪いの動機」が聴こえてくると「英雄の動機」が短調に転じられて音楽は静まっていく。この音楽も演奏会で独立して取り上げられることが多い傑作だ。

◇第3場◇
舞台は再びギービヒ家の館。何ともいえぬ胸騒ぎを覚えるグートルーネ。ブリュンヒルデがこつ然と姿を消したことも彼女の不安に拍車をかける。そこへハーゲンに率いられてジークフリートの亡骸を担いだ一行が帰ってくる。ショックを受けたグートルーネは兄グンターに詰め寄る。グンターはハーゲンの犯行だと明かすが、昂然と開き直ったハーゲンは、ジークフリート殺害はグンターの花嫁に手をつけた裏切りへの正当な処罰であり、指環は自分のものだと主張する。グートルーネは、薬を飲ませて忘れさせた女性というのが、ブリュンヒルデだったことに気がつく。
これに対してグンターは、指環は妻であるグートルーネのものであり、ギービヒ家のものだと主張し、醜いニーベルングの息子であるハーゲンに指環を所有する資格はないと拒む。ハーゲンはグンターを襲いかかって殺害。するとトロボーンによる「呪いの動機」が鳴り響く。この醜い争いによる殺害劇も指環にかけられた呪いによるものだった。
そしてハーゲンがジークフリートの亡骸から指環を外そうと近づくと、「剣の動機」とともにジークフリートの手がまるで生きているかのように持ち上がり、外されることを許さない。
そこへ、威厳を取り戻したブリュンヒルデが登場する。「神々の黄昏の動機」に続いてゆっくりとしたテンポで「エールダの動機(生成の動機)」が演奏される。ブリュンヒルデが人間を超越し神性を取り戻したとも受け取れる動機の使われ方だ。
ここからいよいよ「ブリュンヒルデの自己犠牲」の音楽。ブリュンヒルデはギービヒ家の家臣たちに河畔に薪を積み上げるよう命じ、ジークフリートの亡骸を薪の上に運ばせる。指環を手に取ったブリュンヒルデは、ラインの乙女たちに返すと語る。トロンボーンが「契約の動機」を強奏。続いて「ローゲの動機」が現れ火の神ローゲを呼び寄せて松明を投じ、薪を燃え上がらせる。ブリュンヒルデは「ワルキューレの動機」とともに愛馬グラーネにまたがって、その炎の中に飛び込む。
ここからは前述したようにオーケストラによる交響詩のような展開に。すべての情景や出来事を音楽に語らせる。ギービヒ家の館が炎上し、ライン川は氾濫。その濁流に指環が流され、ラインの乙女たちが姿を現すとハーゲンは「指環から離れろ!」と絶叫し流れに巻き込まれていく。指環はようやく乙女たちの手元に戻った。
続いてオーケストラは「ヴァルハルの動機」を演奏、これを繰り返しその炎上が描かれる。神々の世界の終焉の瞬間だ。金管楽器によって「ジークフリートの動機」が高らかに演奏され、英雄の存在をもう1度強調した後、弦楽器が「愛の救済の動機」を美しく奏でる。ブリュンヒルデの自己犠牲によって呪いは解かれ、すべては救済されたのだ。音楽のみによる大団円。観る者、聴く人にさまざまな示唆と思いを残す幕切れとなる。

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2010年3月15日のニュース