「甲子園出場は東大進学より難しい」15年で14人の東大生を生んだ湘南高校野球部が猛練習に励むワケ

[ 2026年2月7日 11:14 ]

勉強、部活、行事の「三兎を追う」を追う校風を持つ湘南の野球部を率いる川村靖監督(撮影・柳内 遼平)
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 アマチュア野球の指導者らに采配やチーム運営などについて、インタビューする連載「指導者の思考法」。第12回は「偏差値73」の進学校として知られる湘南(神奈川)を指揮する川村靖監督(63)。東京六大学野球リーグの東大で活躍する選手を輩出する野球部のリアルを聞いた。(取材 アマチュア野球担当キャップ・柳内 遼平)

――湘南は勉強、部活、行事の「三兎を追う」校風があり、野球部は1949年夏の甲子園を制した古豪。東大の大久保裕監督、現役時代は東京六大学野球リーグで8勝を挙げた西山明彦先輩理事、日本ハム、ヤクルトでプレーした宮台康平氏らの出身校としても知られる。現在の湘南はどんな生徒が入部してくるのか。
 「入部してくる生徒は中学時代に強豪私学から声がかかるような選手ではありません。ウチは県内トップクラスの難関入試を突破して来た生徒で勝負するしかありません。“勉強の方で頑張ってきました”という子が大半ですね。中学の体育の成績で“本物の5”を取っている選手がいると期待します。体育の成績が「5」といっても中身はさまざま。例えば50メートル走が9秒台でも、真面目に授業を受けて準備や片付けをして評価された“5”もあれば、身体能力がずば抜けている“本物の5”もいる。ウチのOBで東大からプロ野球の世界に飛び込んだ宮台はまさに“本物の5”でしたね。ただ、湘南に来る選手は中学時代に勉強優先で野球をセーブしていたケースが多く、高校の厳しい練習環境に身を置くことで急速に伸びることが多いんです」

――進学校の野球部といえば時間がない分、データを駆使したり、数字で成長を計ったりするイメージ。ただ、川村監督の指導方針はむしろ泥臭く基礎体力の強化に重きを置いているように見える。
 「数学に例えるならば、因数分解や微分積分をやる前に、まずは足し算や九九ができなければ話にならないということです。だからウチは走る、投げる、打つ、という基礎を徹底的にやります。冬場の練習には“ハードワーク期間”を設けています。朝6時半に集合して、1500メートル走の計測、ロングティーの打ち込み、そしてラントレをみっちりやる。理不尽な練習かもしれません。でも、それを乗り越えることで体力がつき“これだけやったんだ”という自信も芽生えるのです。野球というスポーツは基礎能力がなければ頭で分かっていても実際のプレーにつなげられません。また、自信がないからこそ起こるボーンヘッドもありますね」

――2010年から25年までの野球部の卒業生で14人が東大、6人が京大に進学(浪人含む)。なぜ野球に本気に立ち向かう中で輝かしい進学実績を残せるのか。
 「生徒たちのタイムマネジメント能力、時間の使い方のうまさは特筆すべきものがあると思います。隙間時間を無駄にしない姿勢が身についているからこそ、野球が終わった後の受験勉強で爆発的な集中力を発揮できるのです。遠征のバスの中でも単語帳を開くのは当たり前。そうした切り替えができる子は野球でも伸びますよね」

――昨年は杉浦海大捕手が東大の主将として秋季東京六大学野球リーグで2勝に導き、社会人野球の日本製鉄かずさマジックで野球を継続する。大学で伸びる選手を育てるには。
 「プロに行くようなずば抜けた選手を除いて、意外にも長く野球を続けていれば最終的な実力差は縮まる傾向にあるんです。高校時代は横浜や東海大相模の選手とは埋めがたい差があるかもしれない。でも、大学、社会人と続けていくと、プロに行くような天才選手以外との差は縮まっていく。(成長が見込める)大学で腕を磨くためにも湘南で基礎体力をつけておく必要がありますね。私自身、大学を出てから社会人のクラブチームで長くプレーしました。都市対抗予選などで企業の強豪チームと対戦した際、ドラフト1位候補の好投手からホームランを打った経験もあります。“なんだ、意外と手が届くじゃないか”と実感しました。また、高校時代に凄かった私学の選手が、意外にも大学で伸び悩むケースも見てきました」

――東大には多くの選手が進学してきた。
 「同じ東京六大学野球リーグでも早大、明大、法大といった大学は選手層が厚く、試合に出ることは難しい。しかし、東大ならば湘南の選手にも神宮の土を踏めるチャンスがある。だから“大学でも試合に出たいなら東大に行け”と言っています。宮台たちの活躍を見て今の選手たちも“東大で野球がやりたい”と堂々と言えるようになりました。先輩たちの背中が、後輩たちの心理的なハードルを下げてくれたのです」

――勉強ができることは野球においてプラスに働くか。
 「プラスになると思います。勉強も野球も最終的には“勝負強さ”が大事です。彼らには“勉強があるから野球で負けてもいい”なんて言い訳はさせず、“野球の借りは野球で返すしかない”と言っています。そうした覚悟を持たせることも上のレベルで通用する土台になります」

――最後に今シーズンの意気込みを。
 「今年は楽しみな選手がいます。春に勝ってシード権を取り、夏を楽しみたいと思います。そして今の1年生にもいい素材がいる。彼らが成長すれば21世紀枠での甲子園出場も夢ではないと思っています。神奈川の公立校が甲子園に行くこと。それは東大に行くことよりも難しい挑戦かもしれませんが、湘南が強くあることで神奈川の高校野球を面白くしたい。公立の意地を見せたいと思います」

 ◇川村 靖(かわむら・やすし)1962年(昭37)3月17日生まれ、静岡県富士宮市出身の63歳。富士では79年夏の甲子園にエースとして同校初の甲子園出場に導く。横浜国立大卒業後は横浜金港クラブでプレー。86年から上矢部で監督、08年夏には藤沢西の監督として南神奈川大会4強。10年から湘南監督。

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