貯金の山と借金の海は「人生」 ファンが集計し、色づけした阪神87年の地形図

[ 2022年12月6日 07:00 ]

大森正樹さん作成のカレンダー
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 【内田雅也の広角追球】阪神タイガースは創設初年度1936(昭和11)年から今年まで87年間で通算1万1047試合を戦い、成績は5524勝5184敗339分けで勝率.516となっている。

 このレギュラーシーズンを戦っていた期間は計1万6813日にのぼる。その1日1日を勝ち越し(貯金)、負け越し(借金)の数で集計し、分析した阪神ファンがいる。兵庫県芦屋市の会社員、大森正樹さん(55)だ。

 2005年から毎年、愛する阪神の詳細なデータを基にデザインしたカレンダーを自主製作してきた。大森さんと初めて会ったのは、2009年11月、ファン感謝デーの甲子園球場、阪神関係者に紹介された。その猛虎愛と詳細なデータ収集、そしてデザイン力に圧倒された。当欄でも幾度か取り上げてきた。

 今回2023年カレンダーのテーマは「貯金・借金」。今年春先にセ・リーグのワースト記録となる開幕9連敗(4月3日)、プロ野球ワーストの勝率.063(1勝15敗1分け=4月14日)、借金16個(3勝19敗1分け=4月21日)まで落ち込んだ。大森さんは「これまでにないほど憂鬱(ゆううつ)な日々を過ごした」。そして「これまでにも多くの借金を抱え込んだ時もあったなあ」と、過去の貯金・借金集計を思い立ったそうだ。

 調べると、球団史上最低勝率.331に終わった1987(昭和62)年は10月6、8、9日に史上最多の借金43個まで膨らんでいた。球団初の最下位に沈んだ1978(昭和53)年も最多で借金39個がある。

 反対に貯金はどうか。シーズン最多貯金は1リーグ時代の42個。若林忠志監督(投手兼任)の下、独走で優勝を果たした戦後2年目の1947(昭和22)年の最終戦、11月12日である。星野仙一監督の下で独走した2003年も9月3日をはじめ4日間は貯金40個の大台に達していた。

 初年度からの累積の貯金も集計した。最高値は575個で、意外にも1977(昭和52)年7月3~7日の4日間だった。当時は吉田義男監督(第1次)。阪神は1962、64年と優勝した後、巨人V9(1965~73年)当時、「万年2位」と冷やかされながら、貯金を積み重ねていたわけだ。現在の貯金は340個だ。

 こうした日々の貯金と借金を大森さんは地形図のように、数に応じて色分けした。貯金は山として、等高線で刻むように緑、黄緑、黄、茶、焦げ茶……、借金は海として、等深線で刻むように水色、青、紺……と、先に書いた1万6813日を色分けした。

 すると、阪神の歴史が美しい地形図のように浮き彫りとなった。大森さんはこんな文章を添えている。

 「高い山は所々に、標高の低い平野が広がり、小川も流れています。そして……深い海があります。あまりに深く、それはほぼ暗黒です」

 1990年代のいわゆる「暗黒時代」を指しているのだろう。大森さんや阪神ファンはそれでも応援し続けてきた。

 「しかし」と文章は続く。「人は山だけでは生きていけません。森があり、川があり、豊かな水があって、潤いのある人生になるのです」

 「Life has its ups and downs」(人生、山あり谷あり」と見出しをつけた。「タイガースの87年にはそのすべてがあります」と、阪神に人生を投影する。

 「深い海を知り、高い山を知る。2023年はその高い山にあるというアレを目指しましょう」

 阪神ファンの常とう句は「来年がある」。岡田彰布監督が言う「アレ」(優勝)に向け、前を向ける作品となっている。
     (編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大から1985年入社。野球記者一筋38年目になる。来年2月で還暦を迎える。

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