再建モードのはずが…予想外の快進撃を支えるオリオールズのルーキー捕手

[ 2022年8月19日 08:30 ]

オリオールズのアドリー・ラッチマン捕手(AP)
Photo By AP

 MLBのレギュラーシーズンも終盤に近づき、プレーオフ争いに注目が集まる。特にア・リーグ東地区は全5チームが勝率5割以上という強豪ぞろい。その中でも、急上昇中のオリオールズがどんな追い込みを見せてくれるかが楽しみだ。

 19年は108敗、昨季は110敗を喫したオリオールズは、完全な再建態勢にあるはずだった。今季も最初の40戦中24敗と厳しいスタート。しかし以降は45勝32敗と勝率6割近い快進撃を続け、予想外の形でワイルドカード争いにも参戦している。

 これほどの大転換の要因になったのが、チーム最大のプロスペクト(有望株)と称されたアドリー・ラッチマン捕手のメジャー昇格だった。19年ドラフト全体1位指名で入団したラッチマンは5月21日、本拠地でのレイズ戦で大歓声を浴びてデビュー。以降、打率.250、出塁率.358、7本塁打とまずまずの成績をマークすると同時に、捕手としてのリード、リーダーシップでも評価は高い。

 「僕たちは勝つことに集中しているのではなく、いいベースボールをプレーすること、チームでプレーすることを考えている。いい方向に向かっていると思えるよ」

 7月上旬、ボルティモアのクラブハウスで話を聞いた際、ラッチマンは落ち着いた表情でそう述べていた。幼少期はバスター・ポージー(元ジャイアンツ捕手)に憧れたという強肩強打のスイッチヒッター。同じく今季にデビューした外野手フリオ・ロドリゲス(マリナーズ)、内野手ボビー・ウィット(ロイヤルズ)に匹敵するスター候補とみられ、実際に今季早速、躍進チームのけん引者となっているのだろう。

 「(大きな期待を浴び)プレッシャーはさまざまな形で感じている。ただ、僕は自分がコントロールできる物事に集中している。それはいい打撃をすること、安定した形で仕事をこなすこと。ファンからのサポートには重圧を感じるよりも、感謝しているよ」

 こういった言葉を聞けば、ラッチマンが精神面で成熟していることは伝わってくる。そんな新星のおかげもあって、トレード期限直前に主砲マンシーニ、抑えのロペスらを放出しながらもオリオールズの勢いは変わらなかった。

 これほどルーキー離れした期待の星が取材中、ほとんど唯一、表情を崩したのは、エンゼルス戦で初めて対戦した大谷翔平選手について尋ねられた時のこと。その瞬間だけ、ラッチマンは24歳の青年に戻ったかのようだった。

 「(大谷の)バットスイングの速さ、存在感は凄い。打席でのスイングを初めて間近で見た時は“ワオ!”という感じだった。自信、スイング、ボールの見送り方など、打撃に関係するあらゆることが素晴らしい。僕はどうやっていい打撃ができるかを見極めようとしているのに、彼は両方をやり遂げてしまうんだからね…」

 売り出し中のルーキーにとっても、ベーブ・ルースの再来とまで呼ばれるようになった大谷は規格外の存在なのだろう。ただ、すぐに落ち着いた様子を取り戻したラッチマンは、今後の目標は「毎日、チームにポジティブなインパクトを残せるような選手になること」だと静かに語った。

 チームの要である捕手に、才能と精神面の成熟を兼備した選手が手に入った意味はチームにとって大きい。オリオールズの今後は明るいのかもしれない。今秋、ラッチマンが畏敬の念を持って語った大谷よりも一足先に、話題のルーキーに引っ張られたチームがワイルドカード獲得を果たしても、もう驚くべきではない。(記者コラム・杉浦 大介通信員)

続きを表示

2022年8月19日のニュース