【内田雅也の追球】甲子園球児のごとく…連敗脱出を呼び込んだ「食らいつく」姿勢

[ 2022年8月19日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神10―2ヤクルト ( 2022年8月18日    神宮 )

<ヤ・神>初回無死、塩見の打球に飛びつく中野(撮影・平嶋 理子)
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 阪神の勝利を決定づけたのは7回表、2死無走者から奪った5点である。「あと1人」からつないだ攻撃は「あきらめない」という不屈の姿勢を思い起こさせた。

 4―2と2点リードで残り3イニング。まだ試合の行方はわからない正念場だった。約1カ月ぶりに先発出場した坂本誠志郎が中前打し、コロナ陽性から9試合ぶり復帰の中野拓夢が右前打でつなぎ、島田海吏が放った中前適時打が大きい。

 1ボール2ストライクと追い込まれながら、外角低めフォークにしがみつくようにバットを出し遊撃頭上を破った。島田は「しぶとく食らいついた」と語っている。

 この「食らいつく」が連敗脱出のカギだった。

 この後、2死満塁から右前2点打した佐藤輝明も同じ外角低めフォークにまさに食らいついて二塁頭上を破った。

 3回表に先制3ランを放ったメル・ロハス・ジュニアも試合中のコメントで「食らいついた」と話していた。1回裏の守り、先頭打者の中前へ抜けそうなライナーを好捕した中野の好守も打球に食らいついたからだ。2年ぶり本塁打に二塁打を放った原口文仁も食らいついての打撃である。

 必死なのだ。甲子園球場で行われている夏の高校野球のようである。この日の準々決勝も熱戦続きだった。春夏連覇に挑む大阪桐蔭が敗れた。横綱を倒したのは下関国際の食らいつく姿勢だ。

 野村克也が著書『高校野球論』(角川新書)で<何といっても「負ければ終わり」というトーナメントが生みだす独特の熱気と緊張感。高校野球最大の魅力はやはりそこだろう>と記している。

 「侍ジャパン」日本代表監督を務める栗山英樹が日本ハム監督1年目の2012年5月17日、セ・パ交流戦で初めて甲子園球場入りした際、選手たちに「甲子園に恥じない試合をやろう」と呼びかけた。「プロは毎日試合があるから……というのは甘えだと思う。全試合、甲子園決勝戦のつもりで戦うことはできる」

 8連敗を喫し、あの開幕当初のような地獄はごめんだという思いがあった。「甲子園」のような覚悟もあったろう。だから食らいついたのだ。

 誰もが高校球児だった。あの心を忘れてはいけない。食らいつけば、甲子園のようなドラマも生まれる。=敬称略=(編集委員)

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2022年8月19日のニュース