【内田雅也の追球】「打ち」「走る」という「原点」 阪神・高橋、プロ初完封呼んだ打撃・走塁姿勢

[ 2021年9月26日 08:00 ]

<巨・神21>8回1死、高橋は左前打を放つ(撮影・椎名 航)
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 8回表1死、打席の阪神・高橋遥人は打つ気でいた。ベンチから特に指示はなかったようだ。

 1―0の終盤。こうした時、投手に「三振」の指示が出ることがある。打撃や走塁で投球に悪影響が及ぶのを案じ、早く休ませて、次の投球に備えさせるわけだ。

 今は巨人投手チーフコーチ補佐の桑田真澄は現役時代、「ぼくは三振してこいっていうサインが出ても、キャンセルしていました」と打ち明けている。野球殿堂入りの作家・佐山和夫との対談『野球道』(ちくま新書)にある。「八回で打順が回ってきて、三振してこいのサインが出てもノンノンって」。まさにこの日のようなケースだ。

 桑田には原点の思いがあった。「やっぱり、野球が好きという気持ちが根底にあるんですよ。ピッチャーだけど打ちたいし走りたいし守りたい」

 純粋な高橋も似た思いではなかったか。前2打席も菅野智之にフルスイングで向かっていた。

 そして、この打席、思いは結果につながる。空振り、ファウルの後、スライダーを三遊間突破、左前打を放った。今季6打席目の初安打だった。

 さらに近本光司が二塁打で続いて1死二、三塁。打者・中野拓夢がファウルを放った際、高橋は三塁走者としてスタートを切っていた。「ゴロゴー」での本塁突入を試みようとしていたのだ。

 古くから「ピッチャー、ドント・ラン」(投手、走るべからず)の教えがある。確かに、投手が走塁で呼吸を乱したり、体を傷めたりして、肝心の投球が乱れてしまった例を幾度かみてきた。

 一方で投手の安打から得点した例もいくらもある。2003年に福原忍(現投手コーチ)が2死無走者から安打して4点、08年に安藤優也(現2軍投手コーチ)が同じく2死無走者から安打して5点を奪ったのを目の当たりにした。

 当時監督の星野仙一も岡田彰布も明確に「打て」と指示していた。星野は「フッとなめたら、こうなるんや」と相手投手の心の隙をみていた。菅野に油断があったかどうか分からぬが、投手の安打は精神的に効いたはずだ。この辺は指名打者(DH)制にはない勝負の綾である。

 そして、やはり野球は人間的である。力投する投手が打撃や走塁で懸命な姿勢を見せれば、心に響かない者などいない。中野はフォークに食らいついて2点二塁打した。実を結んだのである。

 1点リードが3点に広がったため、9回裏のピンチも続投させることができた。高橋は自らプロ初完封の道を切りひらいていたわけである。 =敬称略= (編集委員)

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