【内田雅也の追球】決勝点呼んだ二盗と併殺失敗の「時間感覚」 ミス取り返した阪神、貴重な勝利

[ 2021年9月22日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3ー2中日 ( 2021年9月21日    バンテリンD )

<中・神>9回無死、阪神・島田は二塁内野安打を放つ(撮影・大森 寛明)
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 野球におけるスピードとはコンマ何秒を争うものだ。野球人がその瞬間のプレーを「速い」「遅い」と感じるのもコンマ何秒の差を感じ取っているからである。

 ならば、島田海吏は1球で「遅い」と感じたはずだ。2―2同点の9回表、先頭打者として剛球クローザー、ライデル・マルティネスから二塁左への内野安打で出塁した。俊足打者として高め速球に対して、かぶせた左手に“フライを上げてはいけない。転がせば何とかなる”との意思が宿っているように見えた。

 無死一塁でジェリー・サンズへの初球。一塁走者・島田は第2リードを取る際に投球タイムを体で計ったはずだ。手もとの計測で1秒37。「遅い」と感じたことだろう。

 マルティネスはクイック投法が下手なわけではないが、この夜は遅かった。二盗阻止の投球タイム合格ラインは1秒2とされる。「いける」と感じたはずだ。ベンチからも青信号が出ていた。

 すぐ2球目に走り、二盗を決めた。投球タイムは1秒40。二塁は余裕でセーフだった。1球で判断、スタートを決断した感覚と勇気をたたえたい。速いカウントで二盗したことで、サンズも助かったことだろう。島田は今季6個目の盗塁で、いまだ1つの失敗もない。

 無死二塁としたことで決勝点を奪えたのだ。サンズは内角速球を懸命に右に打って一ゴロ進塁打とした。木浪聖也は犠飛になるよう反対方向へライナー性で上げた。

 木浪の一打には失敗を取り返す反骨の姿勢が見えた。6回裏の守りで悔しい判断ミスがあった。

 1死一、二塁で福留孝介の緩めのゴロが正面に転がった。前進して捕球した木浪は目の前の一塁走者を少し追った後、一塁送球。一塁手の二塁送球は間に合わず、2死二、三塁が残った。

 直後、京田陽太に中前打を浴び2者生還、同点を許した。先に二塁封殺していれば、残る走者は一、三塁。安打でも失点は1点ですんでいた。

 併殺完成の目安は打者走者の一塁到達タイム4秒が目安とされる。

 木浪が狙ったリバースフォース併殺は二塁上タッチが必要で無理があった。福留の一塁到達はアウトになった4歩前で緩めたが4秒41かかっていた。狙うならやはり4―6―3だった。8月28日以来17試合ぶり先発で時間感覚が鈍っていたのかもしれない。

 ただし、阪神にとっては大きな白星だった。何しろ、苦しい試合だった。4番ジェフリー・マルテは好機に2度の併殺、外国人3人で11の0、無失点の先発・秋山拓巳を代えた継投は6回裏登板の若い投手2人が2失点し、裏目と出ていた。

 それでも勝てたのはなぜだろう。たとえば、マルテは6回裏の登板直後に制球に苦しみ、無死一、二塁、カウント2ボールとした小川一平に歩み寄り、声をかけていた。直後の一塁前送りバントを三塁封殺している。先に書いたサンズの進塁打は、打てずとも何とかしようとする姿勢がにじみ出ていた。

 外国人を含め、こうしたチームに貢献しようとする献身姿勢が随所にみられる。これが優勝に向かうチームの、あるべき姿だろう。

 そして、今はもう結果だ。それも個人成績ではなく、チームの勝利こそすべてである。 =敬称略= (編集委員)

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2021年9月22日のニュース