【内田雅也の追球】無死満塁0点の複雑 無得点か、無失点か――阪神紅白戦

[ 2020年6月1日 07:00 ]

3回、半袖のユニホームで登板する谷川(代表撮影)
Photo By 代表撮影

 作家・眉村卓は妻を亡くした後、独り暮らしとなった。「なんぼでも寂しく思うことはできますよ。でも、プラス思考でいこう」と語るインタビューがある。毎日新聞夕刊『新幸福論』2009年10月16日付に掲載されていたのを保存してある。

 「気力が体裁をつくるのではなく、体裁が気力をつくることもある」と語るのが印象深い。「生活にボロを出さないようにと思うと、どこか頑張るでしょ。底の抜けた靴を履いていることがないようにとか、新しいズボン買わないとと思うと、気力も持ちます」

 ユーミンの『ランチタイムが終わる頃』=アルバム『PEARL PIERCE』(1982年発売)所収=では失恋したOLが傷心を隠そうと強がる。「みじめなうわさが届かないように 気の早い半袖で来てみた」

 身なりや服装と意識は密接に関係している。31日、甲子園球場であった阪神紅白戦で半袖アンダーシャツを着ていた選手数人にも、何らかの意識が働いていたのかもしれない。雨上がりの曇天で肌寒い天候だった。

 試合で気になったのはそんな半袖同士の対戦が見られた3回裏である。無死満塁・無得点があった。攻撃側は拙攻・逸機と言え、投手側はよくしのいだと言える。監督・矢野燿大が「打ちすぎても、抑えすぎても気になる」と語っていた通りの複雑な結果である。

 無死満塁で打席に立った半袖のジェリー・サンズは三ゴロで本封。続く半袖のジャスティン・ボーアは空振り三振。福留孝介は一ゴロでクリーンアップトリオで走者を還せなかった。

 投げていたのは半袖の谷川昌希だった。制球難で四球、許盗塁、四球、二塁打で1点を失い、なお無死二、三塁だった。迎えた上本博紀に慎重に投げ、空いている一塁を埋める形の四球。この無死満塁をしのいだのだ。

 「いくら四球を出しても、本塁さえ与えなければいいんだ」牛島和彦(本紙評論家)が横浜(現DeNA)監督に就任した2004年10月、秋季練習で投手陣に語ったのを覚えている。後に「四球はダメだというマイナス思考を取り除きたかった」と語っている。
 眉村も牛島も目指したのはプラス思考である。矢野も同じ思考で、さらに頭に「超」がつく。ならば、無死満塁無得点も抑えた側の無失点を評価しているかもしれない。

 きょうから6月、衣替え。ちなみに、この日、半袖だったのは先に書いた谷川、サンズ、ボーアのほか、梅野隆太郎、木浪聖也、江越大賀……他にもいたかもしれない。もちろん、半袖だからどうだということはなく、天候に関係なく、プレーの必要上、長袖を着る選手もいるだろう。ともかく、身なりも心も整えて開幕を迎えたい。そんな6月である。=敬称略=(編集委員)

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