「向上心」「ブレない自分」土台に…オリ由伸、ファンも予感するコロナ収束後のさらなる進化 

[ 2020年5月18日 09:00 ]

オリックスの山本由伸
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 多くのファンが、更なる進化を予感していると思う。球界を代表する投手の1人に飛躍したオリックス・山本由伸投手(21)だ。

 16年12月の新入団発表で受けた第一印象から変わらない。常に柔和な笑顔で接してくれる好青年。仲間内では、「いたずらっ子なのだろうな」と想像できる茶目っ気たっぷりなウワサ話も良く聞く。昨季は遊軍記者で複数球団を見ていたので取材機会は減った。その中で、本人的には恥ずかしくて嫌だったかもしれないが、「投球時に舌を出すクセ」なんて話も、書かせてもらったこともあった。

 マウンドに立てば一変する。150キロ超の直球に、ほぼ同球速の高速カットボールに、高速フォーク、カーブも交えて緩急も自在。あどけなさが残る表情からは想像できないほど全球種が一級品。特に昨季は西武戦で3戦2勝(無敗)で計24回1/3を2失点(自責1)、防御率0・37。ソフトバンク戦にも同7試合で3勝2敗、防御率2・25。球界屈指の2つの強力打線をねじ伏せた上で昨季、最優秀防御率(1・95)のタイトルを獲得しており、既に「球界No.1」と称されて、おかしくない存在になっている。

 進化の土台が、「強い向上心」と「ブレない自分を持っている」こと。今春の宮崎キャンプ。愛用グラブの特集企画で、プロスペクト社のブランド「アイピーセレクト」のアルモニーアグラブについて尋ねた。グラブと山本独特の投球フォームの関連は重要なポイントなので、グラブが投球動作にどう作用するかなどを聞いた上で、好奇心から、改めて、「当時フォームを変える怖さはなかったですか?」と聞いてみた。

 日本ハム時代の大谷(現エンゼルス)と対戦した時、そのスライダーを絶賛されるなど1年目から順調に結果を出していた。なのに、フォームを大きく変える。マイナスに働く可能性もある。山本自身もそう思ったはずだ。しかも独特。グラブをはめた左腕を真っすぐ前に伸ばし、同時にボールを持つ右腕も反対側へ。体の中心から左右対称に開いた状態で体重移動し、下半身も含めた全身の機能を連動させる。従来の一般的といわれる投球動作とは真逆。でも、山本には、確信めいたものがあったと言った。

 「プロ1年目は全然良くなかったんですよね。とにかく、もっと良いボールを投げたかった。それ(投球フォームを大きく変える怖さ)よりも、“もっと良いボールを投げたい”としか考えていなかったし、投げられると思っていましたので」

 17年1月の新人合同自主トレの時。当時、監督だった福良淳一GMが山本を見て、「この子はすぐ出てくるやろ」と、つぶやいた。だから、翌年1月のオフに偶然、山本のキャッチボールを見た福良GMが、今度は「ん?」と小首をかしげたのが印象深くて覚えている。その2月の春季キャンプでは「大丈夫か?」、「出どころが見えやすくなってしまっているのでは?」などと不安視する声があちこちで挙がった。実際、シート打撃や紅白戦などでは制球が荒れたり打ち込まれる場面もあった。首脳陣と向かい合ってフォームを元に戻すプランを打診されたこともあった。指導者たちからしたら、当然だったと思う。山本は譲らなかった。19歳で自身の考えを貫く度胸が凄いと思った。

 2年目で最強セットアッパーに。昨季は先発で最優秀防御率のタイトルを獲得した。結果を示し認められたフォームは、コロナ禍で自主練習期間が続いた中で、DeNA・石田や広島・高橋昂、中日・山本ら若手が次々と参考にしている。同行取材した昨秋の国際大会「プレミア12」。台湾での全体練習の時のこと。右翼付近でキャッチボールなどしていた広島・鈴木誠也は、ソフトバンク・甲斐を座らせて山本のフォームを真似てピッチング。中堅付近で「やり投げトレ」をしていた山本に、巨人・坂本、DeNA・今永らが歩み寄り、一緒に「やり投げ」をする場面もあったことなど、球界の注目の的と言っていい。

 自覚も芽生えている。今春の宮崎キャンプのこと。前や佐藤一ら新人選手らを食事に誘った。同期入団の榊原とともに後輩を連れて、宮崎市内で有名な釜揚げうどん店で交流を深めた。「ファームの子たちは練習や門限とかもあって、なかなか外に出られていなかったので食べに行こうか?って僕から誘いました。少しずつだけど後輩も増えてきて、いろんな形でコミュニケーションを取れたらなあって思っています」。

 「3・20」当初の開幕投手は山岡が内定していたが、コロナ禍による日程変更で相手次第でダブルエースを投入するプランに方針転換。「4・24」開幕案が浮上した時には、同日が西武戦だったため、首脳陣は山本に開幕投手を託す意向を伝えている。最短で「6・19」の開幕を目指し、試合数は120試合程度が見込まれている。単純に投手の負担が軽減されるとは言えないが、「どんな記録を残してくれるのか」、と多くのファンが期待しているはず。コロナ禍終息後、山本が快投を披露してくれる時が、楽しみでならない。(記者コラム・湯澤 涼)

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2020年5月18日のニュース