菊池雄星 本も野球も“読む力”――年間300冊の読書家、「ステイホーム」でお薦めは…

[ 2020年5月7日 06:20 ]

練習拠点に置くアリゾナでキャッチボールを行う菊池(本人提供)
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 歴史小説、ノンフィクション、イチロー本…。球界きっての読書家として知られるマリナーズの菊池雄星投手(28)がスポニチ本紙の電話インタビューに応じ、自身と読書の関わりについて語った。子供の頃から現在に至るまで、左腕の人間形成に役立ったのは紛れもなく読書だった。「ステイホーム」の今、お薦めの本も挙げてもらった。(聞き手・笹田 幸嗣通信員)

 ――読書家として知られている。世界的に“ステイホーム”が叫ばれているが、自宅でどのくらいのペースで本を読んでいるのか。
 「1日1冊、読みたいです。年間300冊くらい読めばいいんじゃないですかね。シーズン中は移動が多く、またナイターになれば午前中はゆっくりできるので、そうすると読む量は増えます」

 ――どのくらいのスピードで読むのか。
 「小説は2、3時間くらい。読みやすい本や感情を味わう本など、いろいろな種類の本があると思うので、30、40分で読める本もあれば3、4時間かけてじっくり作者や登場人物の気持ちになったりして読むものもあります」

 ――最近はどんな本を読んでいるか。
 「ナイキを創業したフィル・ナイトさんの自伝『SHOE DOG』です。今、読んでいる途中ですけど、日本や(自身がアドバイザリースタッフ契約を結ぶ)アシックスも絡んでいるので凄く興味があって読んでいます。面白いです」

 ――イチロー氏(現マリナーズ球団会長付特別補佐)の本も、たくさん読むと聞く。
 「イチローさんの本は常に読んでいる気がします。同じ本でもイチローさんに出会う前と今では感じ方が違って、気づくポイントも違います。何度も読み直していますね。特に28歳の僕と同じ年齢の時のコメントとかを見ると、僕には到底考えつかないような考え方とか取り組み方をしている。こういう発想を僕と同じ年齢の時にやっていて本当に驚きの連続なんですよね」

 ――子供の頃から読書好きだった。
 「4人きょうだいだったのでお小遣いは多くなかったですけど、両親が本が好きだったので“本はいくら読んでもいいよ”と、お小遣いとは別に書籍代をもらっていました」

 ――本を読むことで得られるものがたくさんあった。
 「普段の生活などで気付きの幅が大きくなって、あとはいろいろな情報が入ってくる中で冷静に見られるようになっているのかなと感じます」

 ――印象に残っている本は。
 「僕は歴史小説とかノンフィクション小説が凄く好きなので、司馬遼太郎さんの『燃えよ剣』とか、沢木耕太郎さんの『一瞬の夏』とか、清水潔さんの『殺人犯はそこにいる』とかですね」

 ――どんなところが心に響くのか。
 「“何でこんな言葉が出てくるんだろう”というのに凄く興味を持っていて、“この表現って凄いな”とか、そういうところが読書をしていて面白い、本を読んで良かったなと思うポイントでもあります。自分の知らない世界を教えてくれるというか、自分はまだまだ何も知らないと思わせてくれるのが、良い本だったなと思うポイントですね」

 ――読書をすることで考える力がつくという。野球に置き換えると、想像力を広げることになるのか。
 「そうですね。高校(花巻東)の時に監督(佐々木洋氏)から“1000円でこんなに良い投資はないぞ”という話をされました。“1000円で何百年も前の人の話を聞けたり、これからの予想だってできる可能性もある。こんな安い投資で得られるものはない”と言われたのが凄く印象に残っています。まさに考える力というところだと思います」

 ――野球にもつながっていると感じるか。
 「プラスになっているところはあると思います。例えば投手コーチや捕手から助言をもらったときにこういうことなんだなと理解する力は読書から得られていると思います」

 ――ネットに情報があふれ、その選別が難しいこともある。
 「基本的には本で読みたいです。1冊を3分でまとめましたみたいな“まとめサイト”などでは情報を自分で取捨選択する能力がつかないと思う。1冊読むことでこれは必要だ、大事だと自分で判断できるようになるはず。だからこそ1冊丸々、読もうと。そこは大事にしていますね」

 ――お薦めの本は。
 「大人の方々には福岡伸一さんの『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』、須賀しのぶさんの『革命前夜』、童門冬二さんの『上杉鷹山』、藤沢周平さんの『蝉しぐれ』、百田尚樹さんの『夏の騎士』をお薦めします。中高生の方々には沢木耕太郎さんの『深夜特急』がとても読みやすいと思います」

 ――本が苦手な子供たちにはどんな本をお薦めするか。
 「漫画でも勉強になるものはたくさんあります。僕も『ONE PIECE』とか『キングダム』とか『SLAM DUNK』は好きです。漫画だからといって避けるのではなく、むしろ今は凄く勉強になる漫画がいっぱいあるので、良いんじゃないかと思います」

 ≪息子に絵本読み聞かせ≫読書家は子供に受け継がれるかもしれない。菊池は昨年7月に誕生した愛息によく絵本を読み聞かせているという。「みんなに“絵本はいいね”と言われているので、(意味を)分かっているか分からないですけど、語りかけている感じですね」。飛び出す絵本などをよく読むそうで「僕のイントネーションで英語を覚えてほしくないので極力、日本語でやっています」とうれしそうに語った。
 本来ならシーズン中にこれだけ家族とともに過ごす時間はないが「そこはプラスに捉えています。一緒にお風呂に入ったりとか、楽しくやっています」。練習後は父親の仕事に奔走する。「この自粛生活中、アンパンマンの歌は誰よりも歌ってあげています(笑い)。アンパンマンを歌うと泣きやむので」と照れ笑いを浮かべた。
 「息子の成長を見て、妻ともゆっくりした時間を過ごせているかなと思います」。愚直に、実直に日々を過ごしてきた菊池にとって家族と過ごす時間は、これ以上ない癒やしになっている。

 ≪「雄星文庫賞」を創設≫菊池は今年から「岩手読書感想文コンクール」(岩手日報社、日報岩手書店会主催)に協力する。同コンクールは「菊池雄星文化プロジェクト 岩手読書感想文コンクール」と改称され、「雄星文庫賞」を創設。取り組みが優れていた学校に、“雄星文庫”として本を寄贈する。菊池は「米国では各選手が慈善団体を持っていたり、文化が根付いている。ダルビッシュさんや田中さんも率先して慈善活動をしている。僕にできる範囲で少しずつ先輩方に続きたい」と語った。

 ≪アリゾナで調整中“いつでもいける”≫菊池はアリゾナ州を拠点にトレーニングを積んでいる。ブルペン入りは週1度のペースで50、60球ほど投げており「いつスタートして、招集がかかってもいいように準備はしています」と順調な調整ぶりを明かした。アリゾナは米国内でもコロナ禍の影響が少なく「トレーニングジムも開けてくれるところが近くにある。マウンドも使える。気候も含めて恵まれている環境にいます」と語った。

 【後記】昨季、菊池は遠征先での休日を利用し、全米最大のサンディエゴ動物園を訪ねた。大きなマントヒヒがたたずむ姿に「コイツ、今、何考えているんだろうな」と笑いながら視線を送った。
 クリーブランドでは全米で有名な「クリーブランド管弦楽団」のコンサートにも足を運んだ。多方面にアンテナを張り、自分が感じ取った疑問を読書で培った「考える力」で解明し、創造しようとする。「全てが野球のためではない」と言いながらも「野球にもつながる」と語る。
 メジャー2年目は95マイル(約153キロ)以上の直球と90マイル(約145キロ)以上のスライダーで力勝負を挑もうとしている。この挑戦も情報を取捨選択し、考え抜いた上での決断。エールを送りたい。(大リーグ担当・笹田 幸嗣通信員)

 ◆菊池 雄星(きくち・ゆうせい)1991年(平3)6月17日生まれ、岩手県出身の28歳。花巻東では甲子園に3回出場し、3年春に準優勝。09年ドラフト1位で西武入り。17年に最多勝、最優秀防御率のタイトルを獲得した。メジャー1年目の昨季は32試合で6勝11敗、防御率5・46。1メートル84、100キロ。左投げ左打ち。家族は元フリーアナウンサーの瑠美夫人と長男。

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