田中将大 消えないサイン盗み事件への憤り “宿敵”への調査も進行中

[ 2020年3月1日 08:15 ]

ヤンキース・田中将大(撮影・会津 智海)
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 このオフの大リーグを騒がせたアストロズのサイン盗み事件の話題も、2月下旬になってようやく少しずつ鎮静化し始めた感がある。オープン戦が始まり、フィールド内の話題、ニュースが増えたといった方が正確だろうか。もっとも、これまでアストロズと対戦してきた投手たちの中で、釈然としない思いや憤りは簡単には消えないはずだ。

 ヤンキースの田中将大投手も、おそらくその一人。それを実感させられたのは先月12日、キャンプ初日の田中にこの件について改めて尋ねたときのことだ。

 「ピッチャーは、サイン盗みをやられていたという確証が持てない中では、“やられてたから、しょうがない”とは考えられないわけですよ。そういう消化の仕方はできない。“自分が打たれから悪い”“自分が投げミスしたから悪い”というふうに絶対考えるじゃないですか。人のせいにはできないし、自分の問題やと思うし。だから、そういうことがなくなってくれれば、もっとシンプルに物事を考えられる。なくなってくれれば大きいと思いますけどね…」

 田中はこれまでシーズン中のアストロズ戦では7試合で0勝2敗、防御率6・62、敵地ミニッツメイド・パークでは4試合で5・73と打ち込まれている。17、19年のポストシーズンでは自身は好投したが、チームは両年ともアストロズに敗退してワールドシリーズ進出を阻まれた。

 MLBの調査の結果、アストロズがサイン盗みに取り組んだのは17~18年の前半までとされている。ただ、そんな発表を疑う声は後を絶たず、ヤンキースをはじめとするライバル球団は数年にわたって不利益を被ってきた可能性は十分ありそうだ。もしもそうだったら、田中も少なからずキャリア、成績、そして人生を不正な形で変えられてきたことになる。

 さらにいえば、昨季は防御率24・75、一昨年は同7・58と田中が大の苦手にしてきたレッドソックスに対する調査も現在進行中。詳細はMLBの発表を待たなければいけないが、昨季まで指揮をとったアレックス・コーラ監督はすでに辞任しており(事実上の解任)、こちらも「クロ」だったとしても誰も驚くまい。田中がレッドソックス戦で不自然な形で痛打されたのは1度や2度ではなく、「一番違和感を感じたのボストン。コーラ(が監督)になってから急に打たれだした。そこはクリアになればいいかなと思います」という言葉は、正直な思いの吐露だったはずだ。

 「自分がコントロールできないことを気にしても仕方がない」。そう口癖のように語る田中は、昨季まで徹底して言い訳を拒否してきた。ただ、その「コントールできないこと」が不正な形で行われていたとしたら…?

 プロ意識の強い選手だけに、腹立たしさはもちろん感じているだろう。最後は冗談めかして笑いながら話したが、「表に出てないだけで、僕らの知らないところでいろんなことが起こっている」という言葉に、やりきれない思いが感じられた。

 救いがあるとすれば、今回の件が大スキャンダルになったことが、今後の抑止力にはなるだろうことだ。各チームが何らかの形でアドバンテージを求める姿勢は変わらないにしても、電子機器を使った露骨なサイン盗みはとりあえず「一時停止」にはなるはず。そんな変化は、田中をはじめとする投手たちにはプラスに働くに違いない。

 過去数年の田中は槍玉に挙げられてきたアストロズ、レッドソックスに苦しみながら、それでも一定以上の成績を挙げて底力を示してきた。加えて今季は特に同地区ゆえに対戦の多いレッドソックスにより投げやすくなるなら、これまで以上の好成績を期待できるという考え方もできる。

 「自分にできること、自分がやらなければいけないことをやるだけです」

 はっきりと見えなかった部分が、少なくともこれまでよりはクリアになって迎える20年シーズン。より平等な戦いを願いつつ、それでいて、さまざな様々な形で用心する気持ちもまだ忘れず、田中は7年目の開幕に向けて準備を進めている。(杉浦 大介通信員)

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2020年3月1日のニュース