ヤクルト球団が見せたドラフト1位・奥川を育てる心意気

[ 2020年1月18日 08:00 ]

コンディショニングに取り組むヤクルト・奥川
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 【君島圭介のスポーツと人間】休むことも勇気ある練習――。頭では理解していてもアスリートは細胞レベルから動くことを求めてしまう。誰あろう、ヤクルトの高津監督は現役時代は「ずっと痛かった」と肩肘に炎症なりケガを抱えながら試合で投げ続けたことを明かした。

 ヤクルトのドラフト1位右腕・奥川(星稜)が15日に横浜市内の病院で検査を受け、右肘に軽度の炎症があると診断されると、球団は即座に炎症が完全に治まるまでのスローイングメニューの禁止を決定した。前日14日の新人合同自主トレでは70メートルの遠投で、風を裂く音をビュンビュン響かせながら投げていた。おそらく本人に自覚がない程度の炎症なのだろう。

 高津監督も「他の投手ならできる範囲の炎症」と認めている。それでもノースローを決めたのは何故か。指揮官は「ヤクルト、日本のエースになるには休んだ方がいい」と続けた。目の前の春季キャンプや開幕戦ではなく、2年後、3年後、さらには10年後まで見据えれば、今投げないことが大きな意味を持つ。

 もし、今年が勝負となるような中堅選手なら話は違うだろう。多少の痛みを押しても投げなければ来年はユニホームを脱がなければいけない。そんな選手に「休むのも練習」とはなかなか言えない。軽い炎症でのノースロー調整は、新人、もっと言えば将来性を買われた高卒ドラフト1位の特権なのだ。ロッテに入団した佐々木朗(大船渡)も状況は似ている。こちらも球団を挙げて大器を育成する覚悟を示している。

 奥川は準優勝した昨夏の甲子園では短期間の5試合で計512球を投げ抜いた。県大会やU―18の国際大会など前後の登板も含めて、今回の炎症と無関係ではない。だからといって高校生にノースローを強要すれば、細胞レベルで拒否されるだろう。大事なのは決定的な状態になるまで見過ごさないこと。高校指導者の判断力が試される。

 ヤクルトの小川淳司GMは「同じ症状で30歳の選手だったら制限なく投げられる。ただ奥川は無理する時期でもない」と将来を見据えた決断だと明かした。将来性を買うなら待てる。本人に自覚のない炎症でもノースローを指示した球団の心意気だ。

 個人的には高校生投手が甲子園のために多少の無理をして投げることは仕方ないと思っている。「大事を取る」には高校3年間は短い。甲子園で将来を犠牲にするのか。この難問はなかなか解けない。ただ、ヤクルト球団は、甲子園で頑張った選手を大事にケアするという別の解答を用意してくれた。(専門委員)

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