【内田雅也の追球】泥臭い「GRIT」――阪神・鳥谷に見えた「やり抜く力」

[ 2019年9月23日 08:30 ]

セ・リーグ   阪神3―0DeNA ( 2019年9月22日    甲子園 )

<神・De>5回、木浪の遊撃左へのゴロで二進する鳥谷(撮影・後藤 正志)
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 3年ほど前、日本でも話題となった米ペンシルベニア大心理学教授、アンジェラ・ダックワースの『やり抜く力 GRIT(グリット)』(ダイヤモンド社)は、成功するために大切なのは、優れた資質よりも情熱と粘り強さだとしている。「IQ」よりも「GRIT」というわけだ。

 GRITは本来、粒の粗い砂やほこりのことを言う。どこか泥臭い雰囲気が漂う言葉だ。

 この夜、阪神・鳥谷敬が見せたのも泥臭さだった。現実にユニホームが泥で汚れるプレーだ。

 0―0の5回裏、1死一、二塁、代打で遊撃左をゴロで抜く左前先制打を放った。泥臭く光ったのはこの直後である。

 木浪聖也の遊撃左へのゴロをDeNA・大和が好捕し二塁送球した。鳥谷が二塁へすべり込んだのと間一髪だった。判定はアウトだったが、監督・矢野燿大がリクエスト。リプレー検証の結果、セーフに覆ったのだ。

 ここでセーフを奪ったのが効いた。1死満塁となったため、続く近本光司の左飛が犠飛となって2点目が入ったのだ。

 ではなぜ、鳥谷は二塁でセーフを奪えたのか。全力疾走はもちろん、一塁走者として広くリードを取り(一塁手はベースを離れていた)、しっかり第2リードをとってからの早い打球判断でのスタートを忠実に実行していたからである。

 「絶対、その通りです」と試合後、一塁コーチボックスで見ていた外野守備走塁コーチ・筒井壮が認めた。「凡事徹底ですね。何でもない、当たり前のことを彼はひょうひょうとやってのける。そのすごさを若い選手たちも見習ってほしい」

 ひょうひょう、という表現はいかにも鳥谷に見合っている。入団以来16年にわたり見てきた鳥谷は、派手なパフォーマンスを好まない。自分がやれること(やるべきこと)は黙々、淡々とこなす。この継続性にある種のすごみがある。ナイターでも午前中に球場入りして準備を整える。レギュラーだったころも、控えに回った近年も変わらない。筒井も「彼の準備は本当に素晴らしい」とたたえた。

 鳥谷はすでに今季限りでの阪神退団が決まっている。球団の引退打診に対し、現役続行の意思を示した。今オフには自由契約となり、移籍先を探ることになる。阪神最後の姿を見ようと、甲子園は今も大入りが続く。

 心の揺れはあるはずだが、鳥谷は見た目には何も変わらない。GRITの姿である。=敬称略=(編集委員)

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