新時代の野球界に革命を 「トラックマン」が引き出す無限の可能性

[ 2019年5月27日 07:30 ]

トラックマンによるデータを分析する甲子園サイエンスラボの加藤氏(右)と奈良氏(左)
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 新時代の訪れとともに、野球界に新たな改革を起こそうとしている。西宮市にある甲子園サイエンスラボ。今年の1月下旬、一般の施設では国内で初めてポータブルのトラックマンを導入した。

 その目的は投手育成における、新たな指導方の確立にある。加藤友樹代表の言葉には、自然と熱がこもった。

 「一番は我々の経験則だけに頼ることなく、データに基づいて、その投手が持つ潜在能力を引き出すことです。上から投げれば良い、というものではありません。出された数値をもとにその投手にあった腕の位置、投げ方が分かりますし、それによってケガの防止につなげることもできます。未完成な中学、高校生が本来の能力を発揮できるお手伝いをしたい、と考えております」

 同施設ではこれまでもラプソードと呼ばれる測定器を用いて、球速、回転数、回転軸などのデータを取得。投手の指導に役立ててきた。その指導ノウハウをアップデートする形で今回、トラックマンを導入。世界一正確とされる「レーダー弾道測定器」によって新たに

 ・地面からリリースポイントの高さ
 ・プレートからリリースした距離
 ・変化球の曲がるタイミング、変化の大きさ
 ・ホームベース到達時のボールの位置

 などを、データとして可視化できるようになった。細分化された項目は30にも及び、感覚に頼ることなく、具体的な数値を基に投球を進化させていくことが可能となった。ピッチング・アナリストとして指導する奈良圭祐氏が示す具体例は、非常に興味深い。

 「高校野球で球速130キロで45センチのホップなら普通のボールと言えますが、130キロでも60センチくらいホップすれば打者(がこれまで経験してきたもの)の平均値を上回るため、打者の経験が少ない分、打ち損じる確率が高まります。これは逆のケースでも当てはまり、球速が145キロありホップが45センチであれば、145キロのスピードにおける平均値を下回りますが、ホップが少ないために打ち損じる可能性が上がります。要は打者は今までの経験値を生かして打撃をしており、打者の経験値の少ないボールを手に入れることが、打者を抑える上で大きな武器となります。この武器が何であるのかをトラックマンで測定し、分析することで、自分がどのタイプの投手であるのかを知ることができると同時に、こちらからは練習の方向性をアドバイスでき、より有効な指導をできると考えています」

 現状の指導ノウハウに満足することはなく、さらなる高みを目指していくのがモットー。その根底には加藤代表の熱い思いがある。

 「高校でもエースにはなれませんでしたし、うまくいかないことが多い野球人生でした。それが大学で新たなトレーニング、ストレッチなどに出会えたことで成長できた半面、“もっと早くから知っておきたかった”と思ったものです。私自身が少年野球からやり直せるのであれば、ちゃんとしたストレッチ、トレーニングの指導を受けて、ケガをしないためには何が必要なのかを教えてほしいと思います。子供たちが野球に打ち込める環境をつくることで“レギュラーになる”“甲子園に出場する”“プロ野球選手になる”“メジャーリーガーになる”という夢のお手伝いをしたい」

 神港学園(兵庫)では肩、腰の故障もあり控え投手。中央学院大入学時には最速133キロの右投手だった。それがストレッチに出会ったことで、2年時には最速145キロを計測。3年では150キロにも到達し、卒業後は名門・川鉄千葉へと進んだ。4年連続で都市対抗野球に出場するなどチームに貢献したが、小さい頃からの夢であったプロ野球の舞台へは進めなかった。6シーズンで引退。その後は「1人でも多くの子どもたちを教えたい」の思いを断ちきれず、大企業に就職した安定を捨て、地元である兵庫へ戻り、治療院「加藤ボディバランス」を立ち上げた。その発展形として、同施設を17年に開設。十数年を経た今も、人生の分岐点で一念発起した当時の思いが、色あせることはない。

 指導者としての豊富なキャリアに加え、トラックマンによる精密なデータも育成の指針の一つとなった。データの蓄積はそのまま、指導における新たな引き出しをつくることを意味する。1人1人が無限に秘める可能性を引き出すために――。甲子園サイエンスラボもまた、日々、進化を続けていく。問い合わせは電話0798―61―1507まで。

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