甲状腺機能低下症と戦ったヤクルト今浪 想像超える苦しみ 一時は寝たきりに

[ 2016年10月14日 10:05 ]

ヤクルトの今浪
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 想像を超えた苦しみの言葉に、メモを取るペンが止まった。

 「甲状腺機能低下症」

 聞き慣れない病気に襲われたヤクルト・今浪に話を聞いた時だった。

 「大げさじゃなく死ぬんじゃないかって思うぐらい辛かった。この病気を知らなかったので…。何もする気力が起こらないし、人に会いたくない。鬱(うつ)に似た症状になりました」。

 「甲状腺機能低下症」は甲状腺ホルモンの分泌が低下して活動性が低下する病気。眠気、無気力、抑うつ、記憶障害などの症状が出て、皮膚がむくみ脱毛することも。発症の比率は圧倒的に女性が多いとされる。治療が遅れると死亡の危険性もあるという。

 今浪の体に異変が起きたのは8月上旬だった。倦怠感が抜けず風邪のような症状を感じたが、体温計で測ると35度台と平熱より低い。「おかしいな。年(32歳)のせいかな」と練習に打ち込んだが、不安は一掃駆り立てられた。体重も例年は暑い時期に増えないのに、74キロから4キロ増の78キロに。両眼はむくみ、立っているのも辛かった。

 だが、チームはCS進出を狙う大事な時期だった。今浪は一塁、遊撃、三塁を守り、今季得点圏打率・344。10球以上ファウルで粘る打席も珍しくない。攻守で替えのきかない選手だ。川端、雄平と主力選手が故障で離脱した台所事情もある。「必要とされている限りグラウンドに立ちたい」。病院に行く選択肢は浮かばなかった。

 思いと裏腹に、体調は悪化の一途をたどる。8月31日。巨人戦(富山)で試合前にティー打撃を3球打ったところで、「バットを振ることも辛い」と断念した。翌9月1日。富山から帰京する移動日だった。自宅の最寄り駅に着いたが体全身を疲労感が襲い、足が前に出ない。自宅まで歩けず倒れ込むように近くの喫茶店に入った。体が限界を超えて悲鳴を上げた。

 午後10時過ぎに救急外来で都内の病院へ。問診票の記入欄に名前しか書けなかった。「何を書けばいいか浮かばない。年齢もなぜか31と書いていた。それも覚えていない」。記憶障害の症状だった。検査結果が出たのが5時間後の午前3時。診断名は「甲状腺機能低下症」だった。「ドーピングに引っかかるから薬は飲みたくない」と医師に訴えたが、それどころではない。そのまま自宅に帰らず緊急入院した。

 1週間はほぼ寝たきりの生活。投薬治療で体調は回復に向かったが、筋力は落ちて心も滅入った。「家に閉じこもって何もする気が起こらない。もう一度野球できるのかなと不安だった」。3日に登録抹消された際の球団発表は「全治不明」。だが、今浪はわずか3週間後の24日に1軍復帰した。「球場に行ってみんなとバカ話できる環境になってだいぶ楽になった。周囲に救われました」と感謝を口にする。

 現在は甲状腺の数値も正常の範囲内に収まっているが、体調は万全でなく投薬治療は一生続くという。故障を押しての強行出場と病気は違う。我慢強く責任感が強い今浪だからこそ、無理をしてほしくないと強く思う。健康にまさる幸福はない。(記者コラム・平尾 類) 

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