西武・田辺監督 武藤との“あわや乱闘”の裏にあった制球力の秘密

[ 2016年5月27日 09:40 ]

試合前の1打席対決で西武・田辺監督の死球を受ける武藤

 1球に「西武・田辺監督」が集約されていた。指揮官は満足そうに振り返った。「一番肉が厚くて、痛みも少ない左肩にうまく命中させたよ。狙い定めたところにいった」。5月21日、西武プリンスドームでのことだ。

 ソフトバンク戦で開催された田辺監督の地元山梨県の「富士吉田スペシャルデー」。同郷で中学の先輩でもあるプロレスラー・武藤敬司と、1打席対決が行われた。2年連続で開催されたこの対決。昨年は武藤が投手を務め、指揮官が打席に立ったが今年は逆。マウンドに上がった田辺監督が投じた初球は、武藤の左肩を直撃した。

 格闘家魂に火が付いた武藤はユニホームを脱ぎ捨てて上半身裸で詰め寄り、あわや「乱闘」騒ぎになった。仕切り直しの2球目は空振りで、3球目はボテボテの投ゴロ。泣きの1球も空振りと、昨年も安打を放って完勝した指揮官に今年も軍配が上がった。

 計4球を投じた田辺監督は空振りを奪った1球ではなく、左肩にぶつけた初球を満足そうに振り返っていた。死球からの乱闘はもちろん演出。武藤から「ぶつけていいよ」と指示され、2人で話し合って考えたものだった。とはいえ筋肉が厚くて痛みの少ない左肩に、ドンピシャでぶつけるのはかなりの制球力が要求される。少しでも手元が狂えば顔や脇腹に当たる。投手ではなく、野手出身の田辺監督になぜ、その制球力があったのか。

 田辺監督は02年から約10年間務めた2軍のコーチ時代、西武第2球場で来る日も来る日も打撃投手を務めた。まだ暗い午前6時前、選手よりも早く球場入りし自身のウオーミングアップを終える。そして、早朝練習から夕方の居残り練習まで、日が暮れるまでマウンド手前から球を投げ続けた。多くの選手を1軍に送り出し、「ファームにはドラマがある」と話す元2軍コーチ。当時を思い出しながら、武藤への死球を「あの頃磨いた制球力が、1球に生きたんだな…」と振り返った。

 指揮官としての礎は、ファームにあると言っても過言ではないだろう。現在は1軍の舞台で、自身が育て上げた栗山や中村とともに戦う。チームは4位(26日現在)と苦しいが、このままでは終わらないだろう。(記者コラム・神田 佑)

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